コラム・特集
【連載】安全な通学路は限られた予算でどうつくる? 教育現場のDXが安全教育と道路行政を変える
『移動貧困社会からの脱却―免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』の編著者であるモビリティジャーナリスト楠田悦子の連載企画。
千葉県八街市で発生した通学路での交通事故をきっかけに、通学路の安全点検が全国的に注目されている。今回は今後の通学路の事故防止の対策について考えていく。
2021年6月、千葉県八街市の通学路で、児童5人が死傷する事故が発生した。6月30日に第1回「交通安全対策に関する関係閣僚会議」が急遽開催され、内閣総理大臣からの「子供の安全を守るための万全の対策を講じる」との指示を踏まえ、「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策」を策定された。
この緊急対策に則り、小学校の通学路を対象に合同点検を実施された。それにより2021年12月末時点で、対策が必要な箇所として、全国で7万6,404か所が抽出された。
過去の通学路の事故の対策をさかのぼると、対策の傾向が見えてくる。どうやら、社会問題として大きく取り上げられる交通事故などが発生し一斉点検の指示がなければ、学校、県や市の建設部、警察などが連携して、小学校や中学校の通学路を点検しない地域が多いようなのだ。
この仮説のもと、長野県、兵庫県などの小学校や中学校の校長を務めた方や建設部などに、定期的な通学路の点検を行っているかヒアリングを行った。
すると、やはり「定期的に実施しておらず、一斉点検の指示があった時に実施するのが実情だ。多忙であったり、予算がなかったりするので難しい」と返答があった。また、市、県、警察などが、連携する組織体制がなかったりするようだ。全国的な調査などを見つけられなかったが、どうやら日本の通学路の実情のようだ。
さらに、点検方法にも疑問を思った。教育や土木の担当者などが、危ないと思った箇所を危険箇所としている。つまり普段はクルマに乗っていて、歩いたり自転車に乗ったりしていない人の視点のみになっていないだろうか。いつも使っている小学生や中学生などの利用者の視点が欠けているのではないだろうか。
長野県の伊那で行った調査で、中学生の感じる危険箇所、大人が危険だと思う箇所を重ねたところ、ズレがあることがわかった。
悲しい通学路の交通事故をなくすためには、日本全国に定期点検の仕組みと、利用者眼線を取り入れた定期点検や解決策を考える必要があるのではないだろうか。さらに市の予算が縮小する中で、市民参画を含めた、低コストの仕組みも必要だろう。
2021年はGIGAスクール構想元年と言われる。GIGA スクール構想とは、小中学でパソコンやタブレットを1人1台文房具として活用する新しい学び方の方法だ。新型コロナウイルス感染症の流行により、学校教育でもデジタルツールが積極的に活用されるようになってきている。
パワーポイントを用いた発表資料、写真、動画、手書きイラストアプリなどを用いた表現、Web 会議システム「Zoom」などを活用した外部講師の登壇などが日常的に行われるようになってきている。さらに、付せんを用いたグループディスカッションも同様だ。
筆者は中学校1年生とPCで教室をつなぎオンラインを用いたワークショップを行ったのだが、企業活動として行われているような手法が学校教育の現場でも使われており、中学生のスキルの高さに驚いた。小中学生のまちづくりへの参画が容易になってきていると感じた。
筆者らは試しにGIGA スクール構想を用いて、通学路の安全点検と解決策の検討を長野県の伊那市立春富中学校1年生の協力を得て実施した。
通学路の“ヒヤリハット”を1年生に確認してもらい、もっとも危険であった3 カ所に対して、現状分析と解決策の提案を考えてもらった。その際に、一方的に市や県などに道路整備を依頼するのではなく、生徒自らアクションをとれることがあれば,提案してもらうようにした。
あがってきた解決策には、暗いので木を切って欲しい、クルマの速度を落として欲しいので看板を作りたい、年下の小学生を気遣って徒歩と自転車の通る所を分けて欲しい、部活が終わった後は日没後で自分たちを明るくしたいとキーホルダーや太陽光で充電できるウォッチのデザイン画まで提示されるなど、非常に柔軟な発想であるが実行可能なものが提案された。毎日使う通学路であるからこその現状分析や問題点の指摘も見事なものであった。
中学生の参画は、何よりも生徒自身の安全意識の向上につながると感じた。これまでは、大人から言われた交通ルールを理由も理解せずに、一方的に守るという状況も多かった。
主体的に関わることで、交通ルールを守ることの大切さ、通学に使うモビリティ選びや点検の必要性、さらには、道路インフラが当たり前にあるものではなく、多くの人の手が加わっていることなどを考えるきっかけになったのではないだろうか。
新しい通学路の点検や修繕の方法として、春や秋の交通安全週間に、デジタルを活用して子どもたちや家族に協力してもらってヒヤリハットを出してもらい、マップを作成してみてはどうだろうか。前述したように、スマートフォンやPCの普及のお陰で、子どもや住民の参画が容易になった。
加えて、そこに地区で出てきている修繕要望を重ねて、子ども、地区代表者、市、県、警察などとともに、解決策を検討してみることをおすすめしたい。
その中で最も危ない箇所に順位づけをする。それに対して、利用する子どもや見守る住民の知恵を出し合い、各々ができることを考えて実行する。そうすることで、限られた予算の中で、安全な通学路が実現するのではないだろうか。
交通安全教育や通学路の安全点検の方法は、教育の変化とともに変えていく必要がある。デジタル活用により、いろいろなことが実施できるようになってなった好機として、アップデートし、安全で楽しい通学路を地域でつくっていきたい。
千葉県八街市で発生した通学路での交通事故をきっかけに、通学路の安全点検が全国的に注目されている。今回は今後の通学路の事故防止の対策について考えていく。
通学路の事故対応
2021年6月、千葉県八街市の通学路で、児童5人が死傷する事故が発生した。6月30日に第1回「交通安全対策に関する関係閣僚会議」が急遽開催され、内閣総理大臣からの「子供の安全を守るための万全の対策を講じる」との指示を踏まえ、「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策」を策定された。
この緊急対策に則り、小学校の通学路を対象に合同点検を実施された。それにより2021年12月末時点で、対策が必要な箇所として、全国で7万6,404か所が抽出された。
定期点検が難しい
過去の通学路の事故の対策をさかのぼると、対策の傾向が見えてくる。どうやら、社会問題として大きく取り上げられる交通事故などが発生し一斉点検の指示がなければ、学校、県や市の建設部、警察などが連携して、小学校や中学校の通学路を点検しない地域が多いようなのだ。
この仮説のもと、長野県、兵庫県などの小学校や中学校の校長を務めた方や建設部などに、定期的な通学路の点検を行っているかヒアリングを行った。
すると、やはり「定期的に実施しておらず、一斉点検の指示があった時に実施するのが実情だ。多忙であったり、予算がなかったりするので難しい」と返答があった。また、市、県、警察などが、連携する組織体制がなかったりするようだ。全国的な調査などを見つけられなかったが、どうやら日本の通学路の実情のようだ。
クルマに乗る人の目線、乗らない人の目線
さらに、点検方法にも疑問を思った。教育や土木の担当者などが、危ないと思った箇所を危険箇所としている。つまり普段はクルマに乗っていて、歩いたり自転車に乗ったりしていない人の視点のみになっていないだろうか。いつも使っている小学生や中学生などの利用者の視点が欠けているのではないだろうか。
長野県の伊那で行った調査で、中学生の感じる危険箇所、大人が危険だと思う箇所を重ねたところ、ズレがあることがわかった。
定期点検と利用者の視点を実現したい
悲しい通学路の交通事故をなくすためには、日本全国に定期点検の仕組みと、利用者眼線を取り入れた定期点検や解決策を考える必要があるのではないだろうか。さらに市の予算が縮小する中で、市民参画を含めた、低コストの仕組みも必要だろう。
教育現場のデジタル化
2021年はGIGAスクール構想元年と言われる。GIGA スクール構想とは、小中学でパソコンやタブレットを1人1台文房具として活用する新しい学び方の方法だ。新型コロナウイルス感染症の流行により、学校教育でもデジタルツールが積極的に活用されるようになってきている。
パワーポイントを用いた発表資料、写真、動画、手書きイラストアプリなどを用いた表現、Web 会議システム「Zoom」などを活用した外部講師の登壇などが日常的に行われるようになってきている。さらに、付せんを用いたグループディスカッションも同様だ。
筆者は中学校1年生とPCで教室をつなぎオンラインを用いたワークショップを行ったのだが、企業活動として行われているような手法が学校教育の現場でも使われており、中学生のスキルの高さに驚いた。小中学生のまちづくりへの参画が容易になってきていると感じた。
上がる子どもたちのスキル
筆者らは試しにGIGA スクール構想を用いて、通学路の安全点検と解決策の検討を長野県の伊那市立春富中学校1年生の協力を得て実施した。
通学路の“ヒヤリハット”を1年生に確認してもらい、もっとも危険であった3 カ所に対して、現状分析と解決策の提案を考えてもらった。その際に、一方的に市や県などに道路整備を依頼するのではなく、生徒自らアクションをとれることがあれば,提案してもらうようにした。
あがってきた解決策には、暗いので木を切って欲しい、クルマの速度を落として欲しいので看板を作りたい、年下の小学生を気遣って徒歩と自転車の通る所を分けて欲しい、部活が終わった後は日没後で自分たちを明るくしたいとキーホルダーや太陽光で充電できるウォッチのデザイン画まで提示されるなど、非常に柔軟な発想であるが実行可能なものが提案された。毎日使う通学路であるからこその現状分析や問題点の指摘も見事なものであった。
これまでとこれからの交通安全教育
中学生の参画は、何よりも生徒自身の安全意識の向上につながると感じた。これまでは、大人から言われた交通ルールを理由も理解せずに、一方的に守るという状況も多かった。
主体的に関わることで、交通ルールを守ることの大切さ、通学に使うモビリティ選びや点検の必要性、さらには、道路インフラが当たり前にあるものではなく、多くの人の手が加わっていることなどを考えるきっかけになったのではないだろうか。
限られた予算の中でみんなで作る通学路
新しい通学路の点検や修繕の方法として、春や秋の交通安全週間に、デジタルを活用して子どもたちや家族に協力してもらってヒヤリハットを出してもらい、マップを作成してみてはどうだろうか。前述したように、スマートフォンやPCの普及のお陰で、子どもや住民の参画が容易になった。
加えて、そこに地区で出てきている修繕要望を重ねて、子ども、地区代表者、市、県、警察などとともに、解決策を検討してみることをおすすめしたい。
その中で最も危ない箇所に順位づけをする。それに対して、利用する子どもや見守る住民の知恵を出し合い、各々ができることを考えて実行する。そうすることで、限られた予算の中で、安全な通学路が実現するのではないだろうか。
交通安全教育や通学路の安全点検の方法は、教育の変化とともに変えていく必要がある。デジタル活用により、いろいろなことが実施できるようになってなった好機として、アップデートし、安全で楽しい通学路を地域でつくっていきたい。
WRITTEN by
楠田 悦子
モビリティ―ジャーナリスト。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化と環境について考える活動を行っている。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。
モビリティジャーナリスト楠田悦子と考える、暮らしやすい街づくりとインフラ
- 【連載】安全な通学路は限られた予算でどうつくる? 教育現場のDXが安全教育と道路行政を変える