BIM/CIM施策の導入・発展のために活動を続ける「一般社団法人Civilユーザー会」。その団体の幹事を務める長谷川充氏に、様々なテーマで「BIM/CIM」について語っていただく。3回目の今回は、「埋設インフラのサイクルを自動化したい」。
1.やりたいこと
埋設インフラのサイクルとは何でしょうか。埋設インフラには必ず起点と終点があります。上水道であれば水源地が起点でユーザーの一般家庭が終点、下水道であればユーザーの一般家庭が起点で処理場が終点となります。これらがすべて繋がっていて管路施設、パイプネットワーク、と称されています。
当然のことながらこれらのパイプネットワークは1日で完成するわけではありません。何年も何十年もかけて構築されたものです。ということは、一通りのネットワークを構築した時点で始めの方に作られた管路はすでに老齢化していることが想像できます。
パイプラインの生涯は、敷設された時点で生を受け、10年ほどで自然地盤に馴染んだころから老化が始まり、材質の経年劣化によって病に伏し、最終的には破壊して終える。人と同じ生老病死のサイクルです。
では、前回の予告通り、埋設インフラの自動化について考えてみます。自動化には狭義と広義があると考えられます。狭義では、例えば設計フェーズにおいて、計画線形と一般構造を決めたら自動で解析や配管をしたい、とか、モデルができたら自動で数量を拾いたいなどです。
一方、広義では、施設管理フェーズにおいて、管路施設全体の急所や健康状態を常時診断したい、とか、メンテナスに必要な資材を自動発注したい、とかが想像できます。だとするならば、今回の身近な小さなBIM/CIMは、狭義、広義問わず、まずオブジェクト図を作ろう!です。
2.今できること
埋設インフラの建設~維持管理~リニューアルのサイクルで各フェーズを自動化するには、さまざまな情報(Information)、“I(あい)”を整理する必要があります。現状の“I(あい)”はあらゆるところ、あらゆるアプリケーションに分散していて、知りたい情報にたどり着くには相応の時間を必要とします。これを集約するための一つの方法として「データベース化」がある、ということは前回お話ししたとおりです。
私は、データが蓄積されて情報になり、情報が蓄積されて知識になり、知識が蓄積されて知恵になり、そして予測ができるようになる、と思うのです。
水道の配管設計で竣工図から現地の配管を復元する、という作業があります。ヤクモノと呼ばれる異形管は、その寸法がmm単位で分かっていますから、平面的な線形はもちろん、縦断的な線形についても使用している材料と仕切弁等付属施設の位置が分かれば、現場合わせしている細かい部分は除いて概ね復元することができます。
でも、この作業には時間がかかるだけでなく儚さを覚えることしばしです。その儚さのうち、最も残念なのは“1工事のための使い捨て作業”であることです。仮にこの復元作業が3Dモデルとして、適正な保管場所で継承されていくならば“使い捨て“にはならずに有益な”形状情報”として残っていくことになります。
しかしながら、形状情報だけが残っても掲題の自動化には到底及びません。なので、属性情報が「わんさか」入ったアプリケーションやデータベースの元になるオブジェクト図(実際はそこにプラスしてクラス図)が必要になるのです。
オブジェクト図(クラス図)が出来上がれば、各構造物の集合、異存および継承関係とそれぞれの役割が体系化されるので、自動化への道のりはググっと近づいてくる感じがします。そこに形状情報として、経年変化の計測結果が累加されていけば、あとは過去の事例や実績を組み込んだ経験式や実験式を当てはめていくことで、少なくともアセットマネジメントはとても身近なものになることが想像できます。
ただ、これらの取組は一朝一夕では効果が表れません。ですので、まずは現在の業務からそれぞれのフィールドでオブジェクト図化してみるのはどうだろうか、と思った次第です。潮流を作り多くの意見を取り入れて次の世代に渡せる成果作りに皆で取り組めたらやりがいが爆発しそうな気がするのですが。
3.やってみたこと
小さなBIM/CIMでみなさんとともに取り組んでみたいのは事例作りです。私の仕事(に限らずだと思います)では、プロジェクトが開始されると多くの情報を収集します。これをどのように整理するかで、以降の作業時間が大きく変わってきます。
BIM/CIMは情報処理プログラムと密接に関わっていると考えます。例えばGIS(Geographic Information System)データは、もはや位置情報の集約のみならず、相互の関係性の把握には欠かせないものとなっていますよね。
そこで、現地の調査結果や既存の専門アプリケーションとGISデータをどう関連付けて使えるのか、ということを実践してみました。
多くの既存専門アプリケーションは、外部入出力の方法としてCSV形式のファイルに対応しています。しかしながら、この配列は当然各プリケーションで異なるばかりか、アプリケーションによっては、コアな情報を外部ファイルに書き出さないものもあります。
これをマッチングさせるのがまず一苦労なわけですが、使用しているアプリケーションときちんと会話をしていくと、きっと解ると思うので、トライしてみる価値はありそうです。社内の仲間は、QGISを駆使して今までのルーチンワークのロスを改善すべく、新たなケースで試しています。出てきたケースをオブジェクト図化してプログラムの開発チームにバトンを渡していけば、近い将来仕事の仕方が根本から変わるハズと期待しています。
次に、紙媒体のデータをどのようにデータ化するか、についてですが、これは現在実験中でして、うまく行ったらまた報告させていただきますね。
4.これからできること
前述に“適正な保管場所”という言葉を用いました。どんなに理想を掲げてもそれを繋げていかなければ意味がありません。世代を超えて繋げていく、このことは最も高いハードルだと考えています。なぜなら、その行動は、自身の利益に直結しないからです。
例えば御神輿を担ぐという行為。これは自身の利益と無縁のところで継承されています。強い信仰心や地域への貢献、あるいはステークホルダーのいないコミュニティでの協同目的達成という満足度が原動力と言えるでしょう。
これからは、この御神輿を担ぐのと同じように、インフラデータを皆で担ぐ時代だと考えられませんか?そう考える仲間が増えることで、BIM/CIMがもっともっと身近になっていくと思います。そんな仲間のプラットフォームとしては、Open Street MapやPLATEAUなどが考えられますが、現時点では、守秘義務や権利の問題等を解決する必要がありますのでご注意ください。
5.楽CIMは続く
自動化するには、定性的、定量的判断をルーチン化する必要があります。例えば、ある資料や現地の状況を客観的かつ論理性を以て振り分けしなければならないと思うのです。数多もある情報のいわゆる交通整理ですね。これらの情報は一様ではないわけで、見え方や含まれる属性、情報量がまちまちです。根気よく整理していくしかありません。
また、自動化するにはアプリケーションが不可欠です。UML(Unified Modeling Language/統一されたモデリング言語)などを用いてオブジェクト図を作り、開発者へ受け渡していくことも必要です。
例えば設計フェーズでは、この基礎情報をもとにしてBPMNや業務フローに従い各課題と解決策を提示していきますが、これを細分化したオブジェクトにしてその関連性を図化していくと、すなわちそれが身近な小さいBIM/CIMなのだと思う今日この頃です。
BIM/CIMをさらに身近にするためには、感じている面倒を共有できる神輿仲間を作ること、昨今取り沙汰されているPythonなどのプログラム言語を少しずつでも良いので取り込んでいくことでしょうか。
今はまだ納品項目にはないことをどれだけ先にやって公表・ストックし、潮流を作るか、それを出来る人が来るデジタルツイン時代で各専門分野における船頭になるのでしょう。
長谷川 充 Civilユーザー会 幹事/水都環境 代表
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身近なところから始めるBIM/CIM
- 第3回 埋設インフラのサイクルを自動化したい