BIM/CIM施策の導入・発展のために活動を続ける「一般社団法人Civilユーザー会」。その団体の幹事を務める長谷川充氏に、様々なテーマで「BIM/CIM」について語っていただく。2回目の今回は、「埋設状況の復元について」。
1.埋設の復元手順
埋設インフラ(パイプライン)の詳細設計は、上位計画で定められたサイズの管路を敷設するために必要なスペースが確保できるかどうかを検証しなければなりません。このスペースを探すために既存の埋設状況を把握することが肝要です。また、特に推進工事などの非開削工法で施工する場合には、既存埋設物の空間情報のほかに土質条件を推定する必要があります。
従前から継承される既存埋設状況の整理手法は、ガス、電話、電気、上水道、下水道などの各事業者が管理する台帳を紙で複写、あるいは写図(管理者によっては複写を許可されず台帳図面の写真撮影や手書きでトレースしなければならない場合もあります)収集して、現況地形図に見えているマンホールやバルブの蓋などの位置を頼りに一路線ずつプロットして図化していきます。
<1事業者当たり埋設調査の主な手順>
2.復元の実態
資料収集は、令和2(2020)年の現在でも管理者の事務所へ出向いて紙の台帳受領が主体です。「.shp」でもなく、「.pdf」でもなく、“紙”です。この時点で違和感を持たない人がいるとしたら、アンモナイト化している可能性がありますのでご注意ください(笑)。
と、書きましたが、もちろんすべての事業者が紙媒体しか提供しない、というものではありません。属性を含む電子媒体で提供していただける事業体もありますので誤解がないように注記しておきます。また、コロナ禍の影響で事務所への来訪機会を軽減するために、FAX、Mailを利用して提供してくれる事業者もあります。この点ではコロナ禍によって少々前に進んだように思います。「災い転じて福となす」といったところでしょうか。
こうして息吹を吹き込まれ出来上がった埋設調査図は、とても愛おしい図面になるのですが、実はふとあるタイミングで苦悩に代わる場合があります。インフラの埋設調査図を作成している段階は、多くの場合手分けをして作業するので設計者目線の密に調べておきたいポイントが作業者に伝わっていないことがほとんどです。
これ自体は作業手順と伝達の仕方を工夫することで改善できそうですが、前表のSTEP6からSTEP9の要否を判断するためには、相応のスキルが必要になります。特に圧力管やケーブルについては、実施工段階でもその埋設位置を柔軟に変化させることができるため、地上に見える蓋などの地物以外の区間について、道路の湾曲や交差点部などで占用位置を正確に復元することはほぼ不可能な状況にあります。
したがって、基本占用位置を読み解き、配管するならこう置くだろう、という推測でプロットすることになるのですが、この読み解く能力と施工年次順に配置する能力、必要な情報を表現する能力等は一朝一夕では身に付きません。
また、二次元の図面で表現するときに製図の手法として“見やすくする”、というのも情報が十分に反映されない一つの原因でもあります。このように諸般の事情から情報が欠落してしまったところに限って不思議と次のような苦悩が生じるのです。
- 施工段階まで気づくことなく進んでしまった結果既存管を貫通させてしまった
- 支障箇所の詳細を再確認しようとしたが膨大な資料から探し出すことができなかった
こうなってしまうと、何のために多くの事業者から資料を収集してそれを時間かけて復元し、愛おしいほどの図面に仕上げて次の段階へ渡したのか、モチベーションが上がるどころか虚しさばかりが残ってしまいます。
下の画像は、紙の各々の事業体が管理している台帳記載の情報を読み取り復元した既存管路の例ですが、現実には接触しているはずがない部分で干渉しているデータになることがしばしばあります。
形状だけ復元しても参照元相互の情報の整合性やそのモデル自体の情報がないとやはり前述の苦悩は解決できません。せめてGISデータで管理されているならそのデータを流通させないと、すべて推測想定の領域を離れることができないのです。
3.ないものは諦める?
では、どうすれば良いのか。まずは理想から参りましょう。ちょうど最近、あるところから埋設インフラのプラットフォームとしてプレスリリースされたものがあります。それが下図です。
主体の企業がどこか、精度がどうだ、とかいう論点を一旦無視したとして、このようなプラットフォームを用いてOpen Street Map的に(あるいは、Wikipediaのように)データを更新し続けられる場所があったとしたら、数十年後にはおおよその埋設インフラはデジタルツイン化されるのではないかと思うのです。
一方、このようなプラットフォーム(≒アルカディア)を実現するには相応に調整時間が必要でしょうけれども前進していることは確かです。ですので、次に来るその時代に備え、簡単に埋設インフラを復元するために今日やっておける、将来に約束しておけることは何かを考えてみます。
昨今、世界的にもIFCデータが一定の注目を集めるようになってきました。関係者同士が同じアプリケーションを使用する前提であればオリジナルデータで受け渡しができる例もありますが、実際には多くのアプリケーションが介在するためにIFCデータで必要な情報の交換ができるように開発が進んでいます。
まだまだ構想段階ですがその適用を上下水道に広げ、アセットマネジメントやリニューアル設計等で使えるようにしよう!という動きがあります。現時点ではできなくても、調査・設計者や施工者、維持管理者などが必要と思うユースケースを出し合っていくことで開発は進んでいきます。
4.できることをやっておく
つまり、必要だと思うユースケースを抽出し、声に出していくことが第一歩として肝要なのだと思います。また、将来使えるデータとするためには、形状のみならず属性が必要なことは周知のことと思います。細かく書き出したらキリがないので、特に埋設インフラで重要だと思うイメージを列記しました。
<埋設インフラ受け渡し情報の筆者イメージ>
これらは体系立てて(モデルに直接付与、GISデータ、CSVなど復元・集計できる体系)情報を整理しておき、来るべきときにその情報を提供できる準備をしておく方が良いと思います。BIM/CIMは遠い先の話ではありません。ましてや、今までのモデリングファイル依存からデータベースプラットフォームへの潮流もあります。
前回の記事を見ていただいた仲間が「3Dモデリング自体に時間をかけないように効率化を図り、3Dモデルの持っている情報をいかにうまく使うかを念頭に置いて3Dの魅力として簡単なものから少しずつ自動化に関する取組みを行い、社内のBIM/CIMを展開しているところです」というコメントを送ってくれました。とても良いと思います。
今ここで、まず触れてみる。言い続けてすでに数年経っていますが、成果品として仕様に定められているか否かではなく、自身の身近な仕事の範囲内でどう効果的なのか、腹落ちしたことを共有いたしませんか?
アプローチ方法はいくらでもあります。仕様が定まるまで待つのではなく、まずは自分たちに恩恵がある使い方を実践してみてユースケースとして出していく、そうすることでベンダーもより実用性の高い開発ができ、その先に仕様として還元されていく。
台帳管理システムで使用されるGIS、設計時に作られるモデル、施工前に確認のために行われる試掘、敷設時の竣工図書、これらをそのフェーズの既存仕様に合わせて作るだけではなく、受け渡す情報に合わせて整理しておき、必要なときにサッと出せる、そんなことを少しずつ進めてみると、その事例が集まって身近なBIM/CIMになっていくのではないでしょうか?
もちろん、塵ばかり集めても方向性は見えづらいので、全体の大枠を決めて仕様化していくことは重要ですからそれはそれで継続していくべきだと思います。同時にその反対側にある小さなBIM/CIMを考えてユースケースを出し合い、実践して一緒に検証することも試しましょう。Civil User Groupでは、そのようなことをワイワイと語るWGもありますので興味ある方はお声がけください。
モデラー、BIMマネージャー、IFCエキスパート(設計の意図を理解しているBIMモデラ―)、BIMツールをシラバスに組み込む教育機関、設計者、施工者、オーナー、etc....関連する皆で身近なBIM/CIMを積み上げて、自然に回転し始めるようになれたら、より一層「楽CIM(たのしむ)」ことができそうだな、とワクワクしています。
今回は、埋設情報の復元を簡単にしたい、という視点から現状と今やっておいたらどうか、と思うことを書き綴ってみました。次回は、埋設インフラの自動化について考えてみます。
長谷川 充 Civilユーザー会 幹事/水都環境 代表
WRITTEN by
長谷川 充
Civilユーザー会 幹事/水都環境 代表。昭和45年名古屋生まれ埼玉育ち。現在はCivilユーザ会の幹事兼、有限会社 水都環境の代表。夜間大経済学部在学中にアルバイト入社した企業が“水コン”と呼ばれる会社だったことがこの世界に入ったきっかけ。水の魅力に惹き込まれるとともに、PCを用いた仕事に興味を持つ。平成18年に水専門の建設コンサルタントを創業し、Pipeline BIMのパイオニアを目指す傍ら、専門学校でCIMの講義を受け持つなどBIM/CIM普及活動に繋げている
身近なところから始めるBIM/CIM
- 第2回 埋設状況の復元を、もっとカンタンに