コラム・特集
角田 憲 2021.1.6

人手不足解消のカギになる!? 知っておきたい“外国人労働者の雇用”について

CONTENTS
  1. 雇用可能な「在留資格」
  2. 建設業界にマッチする在留資格を知る
  3. 多言語教材や相談窓口など国が後押し
  4. 若年層が離れる産業に外国人労働者が喜んで従事するだろうか
  5. i-Constructionの推進が、優秀な外国人労働者活躍のヒントに
人手不足が深刻化している。近年の建設業界では、担い手不足問題として、官民一体となり取組んでいる喫緊の課題であるが、いまだ解決の糸口は掴めていないと言えるだろう。そこで対策の一つとして挙げられているのが外国人労働者雇用だ。

雇用可能な「在留資格」


建設業界では、2023年には21万人もの人手が不足するといわれている。その反面まだ開催の可能性を残している東京オリンピック・パラリンピックや災害復旧、インフラの整備など、ここ数年の建設需要は非常に高まっており、状況は傍目で見ている以上に深刻だ。

i-Constructionによる省人化、生産性向上、人材確保育成を推し進めているとはいえ、現状では2023年までに解消するとは思えない。積極的に外国人労働者の雇用することが業界において重要になってくるだろう。

そこで、まず日本で働くために必要な外国人の在留資格を簡単に紹介していく。

  1. 身分に基づく在留資格(永住者、日本人、配偶者永住者の配偶者など)
  2. 技能実習生(技能実習制度に基づいた在留資格)
  3. 資格外活動(働くことが許されていない留学生などの在留資格者が許可を得てアルバイトをすること)
  4. 専門的技術的分野の在留資格(高度な専門知識を習得しているとされている人材。高度外国人材)
  5. 特定技能(人手不足に対応するため就労を目的とした在留資格。2019年新設、特定技能1号と2号がある)
  6. 特定活動(法務大臣が個々の外国人について特に活動を指定する在留資格。外交官などの家事使用人、ワーキングホリデーなど。

    ※特定活動に関しては、2020オリンピック・パラリンピックに向けた建設需要の増加に対応するため、一時的な制度『外国人建設就労者受入事業』が設けられているが、2020年度で終了予定。

建設業界にマッチする在留資格を知る


2019年、外国人労働者が増加した。その要因として、技能実習生の受け入れが進んでいることといわれている。しかし、技能実習制度の本来の主旨は、『開発途上地域等への技能等の移転を図り、その経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的とする制度』(法務省・厚生労働省によるパンフレットより)である。

つまり、受け入れた外国人技能実習生に技術や知識を習得してもらい、自国で役立ててもらうことが目的の制度なので、人手不足を補うための単純労働は利用できない、とされている。

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長い目で見れば、技能実習生が自国で事業を発展させて、そこで技能を習得した人材が、逆輸入のような形で高度外国人材や特定技能者として就労してくれるための“種まき”とも言えるので、重要度も高く意義のある制度ではあるが、喫緊の課題に対応するには心許ない。

上述した「4.専門的技術的分野の在留資格」は、取得資格や経験年数のハードルが高く、現状の建設業界では当てはまることが少ないといわれている。つまり中長期で雇うことができ、建設業界の担い手不足問題の対策として考えられるのは、基本的には日本人と同様の就業が可能な「1.身分に基づく在留資格」と「5.特定技能」だろう。

特定技能には1号(最長5年)と2号(更新により永続も可能)がある。試験等で技能水準や日本語能力水準をクリアする必要があるが、即戦力として活躍してもらうことができる。

 

多言語教材や相談窓口など国が後押し


外国人雇用に関しては行政も積極的に支援している。例えば厚生労働省では、各言語ごとに分けた動画やテキストを公開しているので、ぜひ有効に活用していきたい。

建設業に従事する外国人労働者向け教材https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10973.html#JAPANISE

外国人建設就労者向け安全衛生視聴覚教材
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/information/videokyozai2.html

外国人労働者の雇用管理に関する事業主からの相談を受付ける『外国人雇用管理アドバイザー』制度もある。
https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/anteikyoku/koyoukanri/index.htm

また、新型コロナウイルスの影響で帰国できない外国人の再就職などを認める措置が取られることになり、それに応じて入出国管理庁により『外国人在留支援センター』も開設されている。
http://www.moj.go.jp/isa/support/fresc/fresc01.html

若年層が離れる産業に外国人労働者が喜んで従事するだろうか


少子高齢化が、人手不足の大きな原因の一つであるのは間違いない。しかしもうひとつの深刻な要因が業界の労働条件だ。2019年10月の国土交通省の資料では、建築産業において週休2日制を取り入れている事業者は全体の1割以下であり、また全産業平均と比較して年間300時間以上長時間労働だという。

以前に比べ給与は上昇傾向にあるが、労働時間が短い製造業と比べて低い水準になっている。そういった背景もあり、いまだ若年層からネガティブな印象を持たれているのは否めず、建設業就業者の約3割が55歳以上であり、29歳以下は約1割程度だといわれている。

国土交通省 資料より

そして、この問題は外国人の雇用にもそのままスライドされる。2019年10月時点の外国人労働者は165万人を超えており、前年の146万人から約19万人も増加している。2009年の56万人から10年ほどで3倍近い増加傾向であり、飛躍的と言えるだろう。

しかし建設業に就労しているのは9万3千人ほどで、全体の約5.6%程度。全産業の中でも突出して人手不足が深刻化している建設業界にとって、決して多いとは言えない数字だろう。作業難易度や内容が違うため、一概には比べることはできないが示唆的ではある。

i-Constructionの推進が、優秀な外国人労働者活躍のヒントに


少子高齢化による人材不足は日本の全産業における課題でもあり、他産業でも優秀な外国人労働者の受け入れを今後も強化していくはずだ。しかし一部では、いまだ外国人労働者を安価な労働力として、俗悪な環境や条件で雇えると思っている節があり、トラブルも多く報道されている。

shutterstock

裏を返せば、優秀な外国人労働者を雇用し、この危機的な人手不足を解消するためには、労働環境の改善が一番の近道だと言えないだろうか。今後の産業において外国人労働者の助力は必須であることは間違いない。

つまり i-Constructionの旗の下、生産性向上、労働環境の改善などを目指し、勢いをもって業界改革を断行している建設業界にとっては課題であると同時にチャンスでもあるのだ。新型コロナウイルスの影響により、日々変わっていく業界の雇用動向を注視していきたい。



WRITTEN by

角田 憲

有限会社さくらぐみにライターとして所属。宅地建物取引士。祖父が宮大工だったことから建築、不動産に興味を持ち、戸建て、マンション等の販売・管理・メンテナンス業務に従事。食、音楽、格闘技・スポーツ全般、健康、トラベルまで幅広く執筆。読書量は年間約300冊。

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