コラム・特集
三浦 るり 2022.11.16

日立ソリューションズが手掛ける海外アライアンス活動【後編】~ 注目の海外商材と日本マーケットの可能性 ~

CONTENTS
  1. 建設業界のDX化を推進するソリューションをラインナップ
  2. 海外で200社以上が導入する「StructionSite」。動画・画像を図面と重ねて進捗管理
  3.  
  4. ドローン撮影からデータの3次元化、計測・分析まで一台で完結!「DatuBIM」
  5. アライアンス活動では、お客様の生の声とメーカーの熱量が不可欠
  6. 課題をポジティブに捉えることで、日本進出の可能性を高めていく
株式会社日立ソリューションズでは北米を中心に世界中の最新テクノロジーをリサーチし、日本でのアライアンス(提携契約)活動を手掛けている。

インタビュー前編(前回記事)ではスタートアップや最新の建設テックの調査活動にはじまりアライアンスを取るまでの流れ、一連の活動でどんなこだわりや苦労があるのかを語っていただいた。

後編(本記事)では、土木・建設業界向け商材の事業化に取り組む日立ソリューションズ サステナブルシティビジネス事業部 新事業推進部 部長のバハディア・ギュルテキン氏(以下、敬称略)、国内での拡販戦略を担うスマート社会ソリューション部 フィールドソリューション部 担当部長の犬塚 武氏(以下、敬称略)にお話しをうかがう。

海外のスタートアップ企業が開発した建設商材「DatuBIM(ダチュビム)」と「StructionSite(ストラクションサイト)」を中心に、アライアンスにおける海外スタートアップとのやりとりや建設業界へのアプローチの仕方について語っていただいた。


建設業界のDX化を推進するソリューションをラインナップ


―― 日立ソリューションズではいま海外商材のアライアンスにおいて建設テックに注目されているそうですね。

バハディア:日立ソリューションズでは多種多様な商材を長年手掛けています。近年は特に、建設業でも非常に関心の高まっているDXをキーワードに建設業向けソリューションの自社開発や他社商材のアライアンスを行っています。

日立ソリューションズ サステナブルシティビジネス事業部 新事業推進部 部長 バハディア・ギュルテキン氏

――お二人は日頃、建設業界を専門にお仕事されているのですね。

バハディア:建設業はもちろん、工場やプラントに関する企業がお客様です。犬塚は事業化された商材の営業活動を取りまとめるポジションです。


私の所属は新事業推進部になり、海外企業のアライアンスを締結し、事業化する、また事業化に伴うプロモーションも手掛けています。

アライアンスを締結する上ではフィールドソリューション部と連携して、リサーチや企画立案を進めています。

―― 扱うのはアライアンス商材のみですか?

犬塚:アライアンス商材だけでなく、日立ソリューションズが単独で開発していたり、村田製作所など他社と共同開発したりする製品・サービスも扱っています。三井住友建設と協創した「GeoMation(ジオメーション) 鉄筋出来形自動検測システム」は先日、「JISA Awards 2022」Winnerを受賞しました。

日立ソリューションズ スマート社会ソリューション部 フィールドソリューション部 担当部長 犬塚 武氏

建設業向けソリューション(資料提供:日立ソリューションズ)

――アライアンス商材の中で新しい建設テックにはどんなものがありますか?

犬塚:最近のものでは「DatuBIM(ダチュビム)」や「StructionSite(ストラクションサイト)」といったソリューションがあります。


海外で200社以上が導入する「StructionSite」。動画・画像を図面と重ねて進捗管理

――それぞれどのようなものか教えていただけますか?

 

犬塚:StructionSiteはアメリカ・カリフォルニア州にあるStructionSite社が開発しました。本国ではすでに何年も前から建設現場で使われいたのですが、私どもでは2020年10月から取り扱うようになりました。

こちらは平面写真だけでなく、360度カメラで撮影した画像・動画を図面上に配置して、管理できるクラウドサービスとなっています。

StructionSiteとは?(資料提供:日立ソリューションズ)

犬塚:通常、写真で現場を記録するというと、1枚、1枚をカメラで撮って、そのデータをひとつずつクラウドにアップロードするという手間がかかりますよね。

StructionSiteは、カメラで動画を撮影しながら歩いていくと、歩いた軌跡を割り出し、その軌跡上に画像情報を記録していきます。

StructionSiteのVideoWalk機能(資料提供:日立ソリューションズ)

――それはかなり効率的ですね。

バハディア:たとえば、管理画面上で撮影ルートにあるポイントを選択するとそのポイントの360度画像を見ることができます。ただカメラを持って歩くだけで、カメラがくまなく撮影してくれるのです。


いま土木・建設業では省人化や遠隔化という分野に注目が高まっていますが、StructionSiteは現場をデジタル化でき、クラウド化することで離れた場所からもリアルに見られるのです。アメリカではすでに260社以上で使われており、日本でも現状30社程度が利用しています。

画像データは図面データと一緒に管理ができるという点も便利で、いつどのタイミングで何が作られたか進捗もわかります。

―― これは一般的な施工管理ソフトと一線を画すような存在ですね。

バハディア:従来の施工管理ソフトは、図面ベースで施工状況を管理するという考え方なのですが、こちらは撮影した画像をベースに、現場の状況を把握するというイメージです。活用する場面も少々異なってくるのではないかと思います。

犬塚:現場での撮影を毎週1回など定期的に行うことで変化がわかるんです。画像を並べて表にすることもでき、1週間で何が変わったかが、一目でわかる。


画像を比較することで異変に気付くこともありますよね。図面で進捗管理を行うとやはり図面を理解できる人材が必要になる。しかし写真であれば、専門知識がなくても進捗管理ができるようになると言えるでしょう。

StructionSiteのSplit view(資料提供:日立ソリューションズ)

―― 新入社員や経験の浅い作業員でも直感的にわかるんですね。


バハディア:データは時系列で管理しており、一つのポイントをクリックすると過去に撮った画像も見られます。StructionSiteは直感的にわかりやすいことにこだわっていて、機能を絞ってシンプルにという方針で開発されています。


犬塚:私たちがStructionSiteに着目した理由もそこにあって、現場の方々が使いやすくて、できるだけ手間のかからないシンプルなものであることが重要と考えています。

現場のDXはなかなか進んでいません。まずは現場を可視化しましょうと言っても、現場で働く方々にとっては、スマートフォンを使ってやりましょう、タブレットを使ってくださいということも、実はハードルが高いんですよね。


犬塚:そんな中で私たちはStructionSiteの“スマホを持って、ただ歩くだけでデータが取れる”というシンプルさに注目しました。

機器を持っていつも点検するように現場を歩くというのであればハードルが低くこなせます。何か途中で確認したりボタンを押したりする工程もなくて、1周して戻ってくる頃には画像データが集まっています。

――画像撮影の仕組みは非常にシンプルということがわかりましたが、管理画面も同じようにシンプルなUIなのでしょうか?

バハディア:機能を絞っているのでボタンも少なくシンプルです。ただ現状、英語表記となっています。とはいえ簡単な操作説明を受ければすぐに扱えるものとなっています。


ドローン撮影からデータの3次元化、計測・分析まで一台で完結!「DatuBIM」


――続いて「DatuBIM」をご紹介いただけますか?

バハディア:こちらはイスラエルに本社を構えるダチュメイト社の商材で、ドローンで撮影した土木工事現場の画像から3Dデータを自動生成し、分析や共有ができるクラウドサービスです。

DatuBIMイメージ(資料提供:日立ソリューションズ)

ドローン関連ですと、撮影した画像から3Dデータ作成までならできる商材がありますが、DatuBIMは、そのデータを使って土量の体積を測定したり、盛土の断面の高さをグラフ表示させたり、またそれらのデータを日々の進捗としてレポート形式で出力するこができます。

時系列での管理もでき、ドローンで撮影したデータに設計図面のCADデータを重畳表示させることも可能です。図面と画像を重ねることで差分がわかり、進捗確認などにご活用いただけます。

ドローン測量による施工進捗管理サービス「DatuBIM」(資料提供:日立ソリューションズ)

――分析機能がかなり充実していますね。

バハディア:これだけで現場の撮影から進捗管理までを行えるサービスになっています。

犬塚:単に実績の進捗が見られるだけでなく、計画とのズレまでチェックできるというのが大きな特徴です。海外ではすでに100社以上が導入しています。

国内では2022年春から販売し始めたばかりなのもあり導入数はそれほど多くないですが、トライアル導入していただいている企業様もいくつかあります。


犬塚:DatuBIMも管理画面は英語表記なのですが、メニューやアイコンが直感的にわかる配置になっています。

バハディア:このほか複数の商材を組み合わせなければできない作業が、DatuBIMであれば1台でできるというのも強みと言えます。

通常ですと、3Dデータをまずモデル化ソフトでモデル化する、それを次に分析用ソフトに移して分析作業を行う。

DatuBIMのご利用シーン(資料提供:日立ソリューションズ)

バハディア:それをまたレポート作成ソフトに移してレポーティングすると手間ですよね。それぞれのソフトの使い方を覚えなければなりません。DatuBIMはエンドツーエンド、一気通貫で進捗管理を行えます。

すでに導入していただいている企業も、もともと複数のソフトを使っていた業務をこれ一つでまかなえるようになったそうです。


犬塚:DatuBIMのもう一つ大きな特徴としては、ドローンの機種に依存しないということ。撮影画像には規格があるのですが、基準に見合っていれば使用するドローンは限定されません。現在、すでに多くの土木系の会社がドローンを所有していますが……。

―― ドローンは持っているけれど活用しきれていないという企業さんも多いと聞きますね。

犬塚:その眠っているドローンを活かすのに最適なのではないかと考えています。

―― DatuBIMが日本市場に受け入れられそうだと感じたポイントはどこですか?

バハディア:我々は現場作業の効率化になるものや生産性を向上させるような建設テックを専門に扱っているのですが、ドローン関連の商材は今まで手掛けていませんでした。競合他社をウォッチしている中でもDatuBIMは画期的な商材だと感じましたね。


アライアンス活動では、お客様の生の声とメーカーの熱量が不可欠


―― 一連のアライアンス活動の中でバハディアさんはどのような業務を担当されているのですか?

バハディア: 北米でリサーチを行っている日立ソリューションズアメリカ社にお客様から寄せられるニーズを、まず伝えて、次にいくつか候補を紹介してもらいます。


社内で定めた基準などをベースに、ロングリストからショートリストを作成し、関係者の中で検討を繰り返します。


途中でメーカーからの商材説明の場も設けますし、お客様に「こんな商材はいかがですか?」とご意見を伺うプロセスも踏んでいます。私たちだけで決めるのではなく、お客様の声を参考に選定しています。

―― ほかに選定のプロセスで大切にしていることはありますか?

バハディア:海外で売れているからと言って日本でもヒットするかと言えばそうではありません。「日本の建設現場で本当に求められているか」の見極めが重要で、そのような意味ではトレンドには注目しています。あとはメーカー側の日本進出に対する気持ちの強さも無視できませんね。


――日本進出に意欲的なスタートアップは多いのでしょうか?

バハディア:それぞれですね。意欲的な場合は、スタートアップ側からアプローチを受けることもあります。こういうケースは契約までの話が早いんです。私たちの方で評価して契約手続きを進めればいいので。StructionSiteは実はこちらのパターンでした。

一方で私たちが興味を示しているけれど、スタートアップ側は日本市場を意識していないケース。これは交渉期間が比較的長くなります。


バハディア:ダチュメイト社は日本に興味をお持ちでしたが進出の構想が具体的にあったわけでもなく、勝算もわからないとのことでした。このようなケースでは私たちが日本市場の可能性を提案するかたちになります。

最初に、なぜ日本展開するのか、なぜ日立ソリューションズと組むのかといったところの意識のすり合わせに数ヶ月を要しました。コミュニケーションを続けるうちに「面白そう」という反応になり、再販契約の内容を具体化していけることになったのです。

――日本市場をアピールする中でどんな話をされるのですか?

犬塚:まず、土木・建設業界の市場として「日本は世界で第3位のマーケットである」といった基本的な情報をはじめ、i-Constructionや働き方改革、インフラの老朽化といった日本の建設業の現状をお伝えします。あとは現場のDX、国として推進しているし、ゼネコンも特別に部署を作って取り組んでいるといったことを説明していますね。


――ちなみに日本市場で販売開始してからのアフターサービスは日立ソリューションズが対応しているのですか?

バハディア:そうです。お客様からも導入後のケアは期待されていますから。自社商材であれ海外商材であれ、継続性は非常に重要です。もし海外商材でトラブルが生じたとしてアメリカからエンジニアを呼ぶなんてことはできませんので……。

課題をポジティブに捉えることで、日本進出の可能性を高めていく


―― 先ほど交渉の中で日本市場の可能性をアピールするという話がありましたが、ネガティブな側面も伝えるのでしょうか?

犬塚:もちろんです。スーパーゼネコンのような大手は新しい技術に積極的ですが、中堅以下の規模は資金が限られていて新しい技術を懐疑的に捉えるケースもあります。

しかし、企業数としては中小企業が圧倒的に多いのが日本です。そういった方面に商材の魅力が広がれば、市場の可能性は大きいとご提案しています。

建設業を取り巻く状況(資料提供:日立ソリューションズ)

バハディア:国の動向からICT化は遅かれ早かれ対応しなければいけない。そんな中でいち早く市場に参入することでマーケットリーダーになりたいという意識も強いので、私たちも話はしやすいです。

――海外のスタートアップ企業との交渉でも話題になるかと思いますが、日本の建設業界のポジティブな面、ネガティブな面をどのように捉えていますか?

犬塚:ひとつは格差が大きい部分でしょうか。中小企業は資金の使い方にとても苦心されていると予測します。ただ、近頃は中堅の会社から勢いを感じますね。

地方の上位ゼネコンさんなどは新しい技術に積極的で。興味があればすぐに試して、導入して、たとえダメだと感じてもまた別の選択肢を探って…と行動力がありますね。


いま私たちが注目すべき、支援すべきなのはそういう新しい技術に積極的に挑戦する企業なのではないかと感じています。

――私どもも日頃取材していて、その層にはICTにも積極的で若手を育てたいという気概を感じますね。

犬塚:そういった企業へ革新的なテクノロジーをご紹介して、できるだけハードルは低く業務改善につなげられるお手伝いができればうれしいですね。

私たちの商材でお客様の生産性が上がり、建設業界全体が上向きになるのを支えていければ。ソリューションベンダーとして日本の建設業を支援していくというのは使命に感じています。


バハディア:私も想いは同じです。ただ、私たちだけで全国をカバーしていくのは難しいと感じています。そこで地方のニーズを把握、追求してくれる販売代理店さんを増やしていきたいですね。私たちだけではなくて全国にネットワークを作って協力して土木・建設業界を支えていきたいと考えています。


【編集部 後記】

取材を通して日立ソリューションズのアライアンス活動は、単に新しいテクノロジーだからではではなく、日本の建設業界のニーズに応える建設テックを厳選していることがわかった。

現場状況を理解し、業界全体への効果も配慮した現実的なソリューションに取り組んでいる。同時に、スタートアップに対しては適切な情報公開を行い、日本への関心を見極めた上でサポートしている様子が伺い知れた。日立ソリューションズが厳選する建設テック系プロダクトに今後も注目していきたい。


株式会社日立ソリューションズ
東京都品川区東品川四丁目12-7
HP:https://www.hitachi-solutions.co.jp/


◎ 撮影時のみマスクを外していただきました。

取材・編集:デジコン編集部/文:三浦 るり/写真:砂田 耕希
WRITTEN by

三浦 るり

2006年よりライターのキャリアをスタートし、2012年よりフリーに。人材業界でさまざまな業界・分野に触れてきた経験を活かし、幅広くライティングを手掛ける。現在は特に建築や不動産、さらにはDX分野を探究中。

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