コラム・特集
平田 佳子 2022.2.14

中国地方初!!建設用3Dプリンタの実証実験&見学会 レポート!「Polyuse」と「加藤組(広島県)」がタッグ。見学会には広島大学の学生も参加!

CONTENTS
  1. 産学官が連携した建設用3Dプリンタ施工の実証実験
  2. 実証実験見学会で3Dプリンタ技術を公開
  3. “将来に活かしたい!” 最新技術に学んだ広島大学の学生たち

産学官が連携した建設用3Dプリンタ施工の実証実験


建設用3Dプリンタを開発するスタートアップ「株式会社Polyuse(ポリウス/以下、Polyuse)」と、広島県を拠点にi-Constructionを牽引する建設会社「株式会社加藤組(以下、加藤組)」がタッグを組み、2021年12月13日〜17日に中国地方で初めて建設用3Dプリンタによる施工の実証実験が行われた。




同取組みは、国土交通省主導のPRISM(建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト)の一環で、建設用3Dプリンタを普及させるべく、国内で初めて産官学が連携。国土交通省・広島大学・Polyuse・加藤組のコラボレーションが実現した。


実証実験の場所は、加藤組が施工する広島県安芸区の国道2号安芸バイパス改良工事の現場。加藤組の施工管理のもと、実際の施工現場にて建設用3Dプリンタを活用し、排水土木構造物(コンクリート)の現場製造を行った。


さらに広島大学教授の主導のもと、造形した構造物の外気温による変化や、経年劣化の推定検査、強度発現の変化に関する検査などが行われ、今後はデータの蓄積や公表を進めていくという。


実証実験見学会で3Dプリンタ技術を公開


12月17日には実証実験見学会が開催。広島大学の学生たちが招かれ、多くのメディア関係者も訪れた。




まずは、加藤組代表の加藤 修司氏が学生たちに挨拶を述べ、同社 原田英司 取締役土木部長が、今回のプロジェクトの背景を説明。「建設業界では、型枠職人が減っていて、構造物が作れなくなる時代がもうすぐ来てしまう。型枠不要で自動で構造物が作れる3Dプリンタ技術を育てて世の中に広げていきたい」と話をした。



加藤組 取締役 土木部長 原田 英司氏

次に、PolyuseのCEOである岩本卓也氏が、同社の3Dプリンタの技術や具体的な造形方法について解説し、3Dプリンタによる構造物製造の実演がスタートした。

Polyuse CEO 岩本卓也氏




造形する面の高さの調整、データチェックの後に、製造へ。モルタルを原料に、六角形が螺旋状に積み上がっていく構造物が約30分で完成した。こうしたひねりのある複雑な構造物は型枠ではできない形状だという。














実証実験見学会で3Dプリンタの機械を操作したのは、加藤組に新卒入社した今戸陽さん。実際に3Dプリンタで構造物をつくった感触はどうだったのだろうか。

今回の実証実験で3Dプリンターを操作した加藤組 今戸 陽氏

「モルタルの吐出量を電圧で調整する作業をしましたが、つまみで調整する単純な作業なので、やり方さえわかれば誰でもできると思います。ただ、モルタルが出過ぎたり出なかったりすることがあるので、その調整に少しだけ慣れが必要かもしれません。3Dプリンタはまだ日本で実用化できていませんが、課題を改善していく中で、3Dプリンタで構造物が作られる将来になっていくんじゃないかと思います」と、今戸氏は技術への期待を込めた。

さらに加藤組代表である加藤修司氏は建設用3Dプリンタを開発する「Polyuse」との出会い、そして今回の見学会について、こう振り返った。

加藤組 代表取締役 加藤 修司氏

「かつて日本の建設業は高い労働意欲と知恵、そして屈強な体をもったスーパーマンのような職人たちが施工をリードし今日までのインフラを作り上げてきました。しかし頼れるその男性たちは時代とともに高齢化、建設業というフィールドから去って行きつつあります」

「これから私たちは叡智を結集し、新たな施工システムを構築していかなければいけない時代を迎えています。そのためには、既存の建設業とは関わりがなかった、新たな感性をもったクリエイティブ集団との協業は欠かせないものだと感じていました」

写真左:Polyuse CEO 岩本卓也氏/写真右:加藤組 代表取締役 加藤 修司氏

「そして建設用3Dプリンタの可能性を模索したことが、クリエイティブ集団Polyuseさんとの出会いでした。Polyuseさんはあえて海外では主流のロボットアームを採用していません。複雑な構造で高価なものより、故障に強い単純な構造で安価なものこそ日本の中小建設企業のニーズにあっていることを理解しているからだと思います。ただし、一見素人でも作れそうな単純さの中に、考え抜かれた叡智がつまっています」


「そして見るたびに改良され、“進化”を続けています。マテリアルであるコンクリートモルタルにも従来とは違う方向からいろいろな改良をすすめています。今回のPRISMでは完成したコンクリート製品の品質や強度の試験を行う広島大学さんの協力を得ることでさらに高性能で安価なコンクリートモルタルの開発に“進化”していくかもしれません」

「私はこのPRISMのような産官学の取組みにより、広島の地から、建設業の未来に寄与していきたいと思っています。そして我々加藤組が標榜する“進化するケンセツ”のパートナーとしてPolyuseさんの今後ますますの“進化”に期待しています。」


“将来に活かしたい!” 最新技術に学んだ広島大学の学生たち


見学に訪れた広島大学の学生・院生も、この最新のデジタル技術に目を輝かせていた。


先進理工系科学研究科修士1年の厚朴璃子さんは、「土木の現場でもDX化が進んでいることに驚きました。私も将来、土木技術者になりたいのですが、こうした新しい技術を使って人手不足や生産性向上の取り組みに貢献したいと考えるきっかけになりました」と、新たな気づきを得たようだ。


同研究科修士2年の室園環さんは、「実際に3Dプリンタで造形された形が非常に緻密に設計されていたので、細かい作業でもうまく活用できそうだと思いました。僕も来年から建設コンサルタントとして構造物の設計をする予定ですが、こういう方法を活用できれば」と、今後の活用に意欲的だ。




また、PolyuseのCTOとして技術部門を統括する松下将士氏と、材料開発や本プロジェクトの管理を担う鎌田太陽氏(材料部門研究開発責任者)は、今回の手応えや感想をそれぞれ話してくれた。

Polyuse CTO 松下将士氏

「我々としては積み上げてきた技術。今日はいろいろな方に良い技術だと言ってもらえて、作り上げてきて本当によかったと実感しました。ミキサーは制御を大きく改善し、今日のような強風で厳しい天候の中でも造形できる練り上がりを出せるまで技術が上がりました」(松下氏)

写真右:Polyuse  材料部門研究開発責任者 鎌田 太陽氏


「今日はデモンストレーションとして、単純な四角形ではなく、3Dプリンタだから再現できる螺旋状に積み上がる六角形の形状をあえて作らせてもらいました。これから気候や環境が変わってもモルタルの品質を保つことをしっかり確立していきたいと思います」(鎌田氏)

建設用3Dプリンタの日本普及に、さらに近づいた今回の実証実験。その結果に大きな手応えを得つつ、これからどう進化していくのか、今後の動向が楽しみだ。



株式会社 加藤組
広島県三次市十日市東一丁目8番13号
TEL: 0824-63-5117
HP:http://kato-gr.com/

株式会社Polyuse
東京都港区浜松町2-2-15 浜松町ダイヤビル2F
HP:https://polyuse.xyz/


◎集合写真の撮影時のみマスクを外していただきました。

取材・編集:デジコン 編集部 / 文:平田 佳子 / 撮影:宇佐美 亮
WRITTEN by

平田 佳子

ライター歴15年。幅広い業界の広告・Webのライティングのほか、建設会社の人材採用関連の取材・ライティングも多く手がける。祖父が土木・建設の仕事をしていたため、小さな頃から憧れあり。

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