2025年4月、測量法に基づく「測地成果2024」が施行され、日本の測量基準が大きく更新された。
現場の技術者たちは、新しい「高さ」の基準に既に適応できているだろうか。
「水平位置(緯度経度)は大きな変化がないから大丈夫」と高を括っていると、痛い目を見る。今回の改定の本丸は「標高(高さ)」である。
特に、数ミリ単位の精度管理が求められるICT舗装工において、旧成果(2011)と新成果(2024)の取り違えは、施工管理基準値を超える「出来形不足」や「厚さ超過」に直結しかねない重大なリスクだ。
本記事では、国土地理院の公表資料に基づき、改定のポイントを再整理するとともに、現場の座標変換に必須となるツール「PatchJGD(標高版)」の正しい使い方と、プロでも陥りやすいパラメータ選択の罠について解説する。
国土地理院は、前回の「測地成果2011」から約13年ぶりに測地成果を改定した。
この背景には、平成28年熊本地震や令和6年能登半島地震などの地殻変動に加え、測量技術の向上による「より正確な日本列島の形状把握」がある。
建設現場で意識すべき最大の変更点は、「標高成果の改定」と「ジオイド2024日本とその周辺(JPGEO2024)」の適用だ。
GNSS測量において、我々が普段目にしている「標高」は、GPS衛星などが測る「楕円体高」から、「ジオイド高」を引き算して求めている。
(画像元:国土地理院 ジオイドとは WEBサイトより引用)
今回、重力測量のデータ増強により、この「引き算の値(ジオイド高)」が全国的に見直された。

(画像元:国土地理院ジオイド・モデルの概要WEBサイトより引用)
つまり、地面が動いていなくても、計算式の中身が変わったために、成果としての「標高値」が変わってしまうのである。
地域によっては数センチメートル以上の変動が生じる場所もあり、これは舗装工事においては看過できない数値だ。
舗装現場、特にICT建機(MC/MG)を導入している現場で最も警戒すべきトラブルは、「新旧成果の混在」による高さの不整合だ。
例えば、設計図面(3次元設計データ)が、改定前の「日本のジオイド2011(GSIGEO2011)」ベースで作成されているとする。
一方で、現場に搬入された最新のアスファルトフィニッシャーやモーターグレーダーの制御システムが、最新の「ジオイド2024日本とその周辺(JPGEO2024)」にアップデートされていた場合、どうなるか。
(画像元:国土地理院ジオイド・モデルの概要WEBサイトより引用)
機械は「自分の位置(標高)」を新基準で計算するが、目指すべき「設計面」は旧基準の高さにある。
この際、計算上のジオイド高にズレがあれば、その分だけ「舗装が薄くなる(または厚くなる)」という現象が起きる。オペレーターが気づかぬまま施工し、検測で「厚さが足りない」と発覚しては手遅れである。
特に注意が必要なのが、2024年度以前に設計・発注され、2025年度に施工をまたぐ「年度またぎ工事」だ。
設計図書は旧成果で作られているが、施工時の基準点は新成果(電子基準点など)を利用せざるを得ないケースが多い。
この場合、着工前の測量計画書作成段階で、発注者と「どちらの成果(ジオイドモデル)を正とするか」を書面で協議しておく必要がある。
現場で新旧の座標変換が必要になった場合、国土地理院が提供する座標補正ソフトウェア「PatchJGD(標高版)」を使用するのが一般的だ。
しかし、このツールの使用には、多くの技術者が見落としがちな「罠」がある。それは「補正パラメータファイルの選び方」だ。
(画像元:国土地理院PatchJGD標高版 Ver.1.0.1画面より引用)
PatchJGDで標高を変換するためのパラメータ(.parファイル)には、大きく分けて以下の2種類が存在する。
ICT施工を行う現場の基準点は、GNSS測量(電子基準点や三角点ベース)で管理されていることが多いはずだ。
その場合、安易に「標高だから水準点用だろう」と①を選んでしまうと、正しい変換ができない可能性がある。
自社の現場の基準点が「何(水準点か三角点か)」に基づいているかを確認し、適切なパラメータファイルを選択することが、精度の担保における最重要ポイントである。
測地成果の改定は、いわば測量における「OSのアップデート」だ。
OSが新しくなったのに、古いアプリ(設定)のまま動かせば不具合が起きる。
特に「見えない地下」ではなく、「目に見える表面」をミリ単位で仕上げる舗装工事において、その不具合は致命的だ。
この基本動作をチーム全体で徹底し、2025年の現場を「厚さ不足」や「手戻り」なく、安全に乗り切ってほしい。
現場の技術者たちは、新しい「高さ」の基準に既に適応できているだろうか。
「水平位置(緯度経度)は大きな変化がないから大丈夫」と高を括っていると、痛い目を見る。今回の改定の本丸は「標高(高さ)」である。
特に、数ミリ単位の精度管理が求められるICT舗装工において、旧成果(2011)と新成果(2024)の取り違えは、施工管理基準値を超える「出来形不足」や「厚さ超過」に直結しかねない重大なリスクだ。
本記事では、国土地理院の公表資料に基づき、改定のポイントを再整理するとともに、現場の座標変換に必須となるツール「PatchJGD(標高版)」の正しい使い方と、プロでも陥りやすいパラメータ選択の罠について解説する。
1. そもそも「測地成果2024」で何が変わったのか?
国土地理院は、前回の「測地成果2011」から約13年ぶりに測地成果を改定した。
この背景には、平成28年熊本地震や令和6年能登半島地震などの地殻変動に加え、測量技術の向上による「より正確な日本列島の形状把握」がある。
建設現場で意識すべき最大の変更点は、「標高成果の改定」と「ジオイド2024日本とその周辺(JPGEO2024)」の適用だ。
GNSS測量において、我々が普段目にしている「標高」は、GPS衛星などが測る「楕円体高」から、「ジオイド高」を引き算して求めている。
(画像元:国土地理院 ジオイドとは WEBサイトより引用)標高 = 楕円体高 − ジオイド高
今回、重力測量のデータ増強により、この「引き算の値(ジオイド高)」が全国的に見直された。

(画像元:国土地理院ジオイド・モデルの概要WEBサイトより引用)つまり、地面が動いていなくても、計算式の中身が変わったために、成果としての「標高値」が変わってしまうのである。
地域によっては数センチメートル以上の変動が生じる場所もあり、これは舗装工事においては看過できない数値だ。
2. 舗装現場へのインパクト。「数センチのズレ」はなぜ起きる?
舗装現場、特にICT建機(MC/MG)を導入している現場で最も警戒すべきトラブルは、「新旧成果の混在」による高さの不整合だ。
ICT建機の刃先が合わない
例えば、設計図面(3次元設計データ)が、改定前の「日本のジオイド2011(GSIGEO2011)」ベースで作成されているとする。
一方で、現場に搬入された最新のアスファルトフィニッシャーやモーターグレーダーの制御システムが、最新の「ジオイド2024日本とその周辺(JPGEO2024)」にアップデートされていた場合、どうなるか。
(画像元:国土地理院ジオイド・モデルの概要WEBサイトより引用)機械は「自分の位置(標高)」を新基準で計算するが、目指すべき「設計面」は旧基準の高さにある。
この際、計算上のジオイド高にズレがあれば、その分だけ「舗装が薄くなる(または厚くなる)」という現象が起きる。オペレーターが気づかぬまま施工し、検測で「厚さが足りない」と発覚しては手遅れである。
過渡期の「発注者協議」
特に注意が必要なのが、2024年度以前に設計・発注され、2025年度に施工をまたぐ「年度またぎ工事」だ。
設計図書は旧成果で作られているが、施工時の基準点は新成果(電子基準点など)を利用せざるを得ないケースが多い。
この場合、着工前の測量計画書作成段階で、発注者と「どちらの成果(ジオイドモデル)を正とするか」を書面で協議しておく必要がある。
3. 【実務】国土地理院「PatchJGD(標高版)」の正しい使い方
現場で新旧の座標変換が必要になった場合、国土地理院が提供する座標補正ソフトウェア「PatchJGD(標高版)」を使用するのが一般的だ。
しかし、このツールの使用には、多くの技術者が見落としがちな「罠」がある。それは「補正パラメータファイルの選び方」だ。
(画像元:国土地理院PatchJGD標高版 Ver.1.0.1画面より引用)PatchJGDで標高を変換するためのパラメータ(.parファイル)には、大きく分けて以下の2種類が存在する。
① 水準点標高補正用パラメータ
- 対象:主に「水準測量」で設置された水準点や、水準測量由来の公共基準点の成果を変換する場合に使用する。
- 中身:水準測量の再計算結果に基づく補正値。
② 三角点標高補正用パラメータ
- 対象:GNSS測量等で設置された「三角点」や「電子基準点」、あるいはそれらを基準とした基準点の成果を変換する場合に使用する。
- 中身:楕円体高の変動とジオイド・モデルの更新分を反映した補正値。ここを間違えてはいけない。
ICT施工を行う現場の基準点は、GNSS測量(電子基準点や三角点ベース)で管理されていることが多いはずだ。
その場合、安易に「標高だから水準点用だろう」と①を選んでしまうと、正しい変換ができない可能性がある。
自社の現場の基準点が「何(水準点か三角点か)」に基づいているかを確認し、適切なパラメータファイルを選択することが、精度の担保における最重要ポイントである。
【変換の基本ワークフロー】
- 国土地理院ウェブサイト「PatchJGD」のページへアクセス。
- 地域と用途(水準点用or三角点用)に応じた最新の補正パラメータをダウンロード。
- 手持ちの座標データ(CSV等)を読み込み、一括変換を実行。
- 変換後の座標値を、現場管理ソフト(TREND-ONEやSiTECH 3D等)にインポートして活用する。
まとめ 〜正しい知識が「手戻り」を防ぐ〜
測地成果の改定は、いわば測量における「OSのアップデート」だ。
OSが新しくなったのに、古いアプリ(設定)のまま動かせば不具合が起きる。
特に「見えない地下」ではなく、「目に見える表面」をミリ単位で仕上げる舗装工事において、その不具合は致命的だ。
- 設計図書が「測地成果2011」か「2024」かを確認する。
- ICT建機やGNSSローバーのジオイドモデル設定を確認する。
- 変換が必要なら「PatchJGD」のパラメータを正しく選定する。
この基本動作をチーム全体で徹底し、2025年の現場を「厚さ不足」や「手戻り」なく、安全に乗り切ってほしい。
TOP画像:国土地理院 全国の標高成果の改定 WEBサイトより引用・加工
参考・引用元URL:国土地理院WEBサイトより
参考・引用元URL:国土地理院WEBサイトより
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