行政・政策
なぜ静岡県は全国に先駆けてICT化が進むのか?ふじのくにi-Con推進協に聞く《後編》-3次元点群データでより良い社会を切り拓く-
静岡県が中心となり、国や県内自治体、建設会社・研究機関・メーカー・ソフトウェア会社などを集結して立ち上げた「ふじのくにi-Construction推進支援協議会(以下、ふじのくにi-Con推進協)」。
前編に続きこの《後編》では、静岡県の職員で同組織の芹澤啓氏と杉本直也氏に、全国でも非常にユニークな取り組みである「3次元点群データ」の活用についてお話を聞いた。
――前編でお話いただいた静岡県の建設産業のICT化。これについて知れば知るほど、3Kという業界のネガティブイメージが払拭されて、逆に、先進性やスマートさを感じました。県が今、とくに力を入れていることはありますでしょうか?
芹澤氏 「3次元点群データ」の収集と活用に力を入れています。この3次元点群データはレーザースキャナーで取っており、膨大な数の点の集合で位置情報を示すXYZと色の情報から成っているんです。
――実際には3次元点群データをどのように活用するのでしょうか?
芹澤氏 一番の目的は、災害時の対応ですね。もともと静岡県全域を2500レベル(1/2500の縮尺の地図の位置と高さの精度)でカバーする地図がなかったので、ICT活用工事で納品された3次元点群データを集積できればと思いました。
それで、被災前と被災後のそれぞれのデータを照らし合わせれば、どの程度の被害があったのかをすぐに把握できて、復旧の効率化にもつながるかと。
杉本氏 今までは、災害時の被害情報を把握するために、私たち県の職員が現地に足を運び、写真を撮って計測していましたが、作業中も土砂が崩れてくるなど二次災害のリスクがあって、とても危険でした。しかしICT化することによってリスクの軽減ができるのではないか?そういった発想だったんです。
――静岡県独自のシステムはありますか?
杉本氏 静岡県では工事完成時に3次元点群データを納品するプロセスにしていて、オンラインで納品できるように、独自に3次元データ保管管理システム「静岡県PCDB(ポイントクラウドデータベース)」をつくりました。
加えて、G空間情報センターという機関に協力いただき、このWebサイトを一般公開。2020年4月30日に誰でもインターネットからデータを登録・ダウンロードできるようにしたんです。3次元点群データをオープンデータ化したのは、全国初の取組みでした。
ここにあるデータは、誰でも著作権を気にせずに二次利用ができます。データを改変して使ってもいいし、ビジネスで利用していただいてもよくて。マインクラフト(Mojang社が開発したブロックで自分の世界をつくって遊べるゲーム。プログラミングもできる)にここの点群データを使った人もいて、そんな使い方もあるのかと、私たちも感心するほど(笑) 。
――2次利用やビジネス活用もOKというのは、可能性に満ちていますね。
杉本氏 手前味噌ですが、せっかく精度の高い3次元データがあるのだから、日本の未来のためにも、建設産業界に限らずに、様々な業界の企業さんや大学などで活用してもらいたいと考えているんです。
その一例として、静岡県ではこの3次元点群データをダイナミックマップ(自動運転システム用高精度3次元地図データ)に使えないかという取組みをしていて。ダイナミックマップ基盤株式会社と協定を結び、自動車メーカーなどとも連携しながら、バスなどの自動運転の実証実験を進めています。
――建設・土木を起点に他の業界・分野と連携して、イノベーションを進めるような形ですね。
杉本氏 はい、そうですね。自動運転はいわゆるMaaS(ICTを活用し、自動車、バス、電車など、すべての交通手段をクラウド化して連携させる新しい統合的な移動サービス)の領域ですが、これを突き詰めて考えると、「この道路でいいの?」「この街づくりでいいのか?」と自動車だけの話ではなく、建設産業の分野にもつながってくるんです。
ぜひ、若い世代の方にも、建設産業はICTを取り入れてスマートな街づくりに関わる、やりがいの大きな仕事だと知っていただきたいですね。例えば、3次元点群データと新しい技術を掛け合わせて「将来こういう街に住みませんか」という提案をしてもらい、3次元の仮想空間でシミュレーションして、実際に街をつくっていく。未来はそんな社会になっていくといいなと思っています。
芹澤氏 建設・土木分野でもITやデータを使うことがどんどん増えてきています。ですので、IT業界に興味のある学生が、建設・土木の企業に来てもらえるような流れになったら嬉しいですし、むしろITが好きな学生は、この業界で活躍できるチャンスだと思います。
――最後に、i-con推進協では定期的に会合を行い、県全体のICT化の進捗や今後について、協議会メンバーと共有されているそうですが、ここ最近での新たな動きを教えてください。
芹澤氏 地下埋設物の管理に注目しています。地下埋設物って、埋めてしまうとどこに埋まっているのかわからない。紙の台帳のようなものはあるのですが、掘ったら位置が違うこともよくあって……。
それに非常に事故が多くて、管の近くは手で掘らなければいけないなど、作業もすごく大変なんです。そこで、埋める前にデータをとってしまえば、正確な位置もわかり、作業もスムーズなんじゃないかと。ただ、まだ具体的なルールがなかったため、地下埋設物についても「県でデータを活用するガイドラインを策定しよう」ということになりました。
杉本氏 まずは私たちが、ICTを現場に導入しやすいルールを策定していく。これからも、そこに手を尽くしていきたいと思っています。難しいルールをつくって導入に時間がかかってしまうと本末転倒ですから、なるべく早く楽にできるように、今あるものを生かしながら、コストも抑えられる仕組みを考えていきたいですね。
いち早くICT化を推進し、公共事業におけるガイドラインの策定や3次元点群データのオープンデータ化など、全国初の取り組みに挑戦してきた静岡県。建設産業界が持つ旧態依然の考え方を、先進的でスマートなイメージに180度転換し、現場の生産性を上げることにも成功してきた。未来の街づくりを引っ張る、静岡県の動きにこれからも注目したい。
前編に続きこの《後編》では、静岡県の職員で同組織の芹澤啓氏と杉本直也氏に、全国でも非常にユニークな取り組みである「3次元点群データ」の活用についてお話を聞いた。
3次元データ活用の一番の目的は、災害に備えるため。
――前編でお話いただいた静岡県の建設産業のICT化。これについて知れば知るほど、3Kという業界のネガティブイメージが払拭されて、逆に、先進性やスマートさを感じました。県が今、とくに力を入れていることはありますでしょうか?
芹澤氏 「3次元点群データ」の収集と活用に力を入れています。この3次元点群データはレーザースキャナーで取っており、膨大な数の点の集合で位置情報を示すXYZと色の情報から成っているんです。
――実際には3次元点群データをどのように活用するのでしょうか?
芹澤氏 一番の目的は、災害時の対応ですね。もともと静岡県全域を2500レベル(1/2500の縮尺の地図の位置と高さの精度)でカバーする地図がなかったので、ICT活用工事で納品された3次元点群データを集積できればと思いました。
それで、被災前と被災後のそれぞれのデータを照らし合わせれば、どの程度の被害があったのかをすぐに把握できて、復旧の効率化にもつながるかと。
杉本氏 今までは、災害時の被害情報を把握するために、私たち県の職員が現地に足を運び、写真を撮って計測していましたが、作業中も土砂が崩れてくるなど二次災害のリスクがあって、とても危険でした。しかしICT化することによってリスクの軽減ができるのではないか?そういった発想だったんです。
未来に向けて、全国で初めて3次元点群データをオープンデータ化
――静岡県独自のシステムはありますか?
杉本氏 静岡県では工事完成時に3次元点群データを納品するプロセスにしていて、オンラインで納品できるように、独自に3次元データ保管管理システム「静岡県PCDB(ポイントクラウドデータベース)」をつくりました。
加えて、G空間情報センターという機関に協力いただき、このWebサイトを一般公開。2020年4月30日に誰でもインターネットからデータを登録・ダウンロードできるようにしたんです。3次元点群データをオープンデータ化したのは、全国初の取組みでした。
ここにあるデータは、誰でも著作権を気にせずに二次利用ができます。データを改変して使ってもいいし、ビジネスで利用していただいてもよくて。マインクラフト(Mojang社が開発したブロックで自分の世界をつくって遊べるゲーム。プログラミングもできる)にここの点群データを使った人もいて、そんな使い方もあるのかと、私たちも感心するほど(笑) 。
――2次利用やビジネス活用もOKというのは、可能性に満ちていますね。
杉本氏 手前味噌ですが、せっかく精度の高い3次元データがあるのだから、日本の未来のためにも、建設産業界に限らずに、様々な業界の企業さんや大学などで活用してもらいたいと考えているんです。
その一例として、静岡県ではこの3次元点群データをダイナミックマップ(自動運転システム用高精度3次元地図データ)に使えないかという取組みをしていて。ダイナミックマップ基盤株式会社と協定を結び、自動車メーカーなどとも連携しながら、バスなどの自動運転の実証実験を進めています。
――建設・土木を起点に他の業界・分野と連携して、イノベーションを進めるような形ですね。
杉本氏 はい、そうですね。自動運転はいわゆるMaaS(ICTを活用し、自動車、バス、電車など、すべての交通手段をクラウド化して連携させる新しい統合的な移動サービス)の領域ですが、これを突き詰めて考えると、「この道路でいいの?」「この街づくりでいいのか?」と自動車だけの話ではなく、建設産業の分野にもつながってくるんです。
ぜひ、若い世代の方にも、建設産業はICTを取り入れてスマートな街づくりに関わる、やりがいの大きな仕事だと知っていただきたいですね。例えば、3次元点群データと新しい技術を掛け合わせて「将来こういう街に住みませんか」という提案をしてもらい、3次元の仮想空間でシミュレーションして、実際に街をつくっていく。未来はそんな社会になっていくといいなと思っています。
芹澤氏 建設・土木分野でもITやデータを使うことがどんどん増えてきています。ですので、IT業界に興味のある学生が、建設・土木の企業に来てもらえるような流れになったら嬉しいですし、むしろITが好きな学生は、この業界で活躍できるチャンスだと思います。
危険なインフラ管理もルール化していく
――最後に、i-con推進協では定期的に会合を行い、県全体のICT化の進捗や今後について、協議会メンバーと共有されているそうですが、ここ最近での新たな動きを教えてください。
芹澤氏 地下埋設物の管理に注目しています。地下埋設物って、埋めてしまうとどこに埋まっているのかわからない。紙の台帳のようなものはあるのですが、掘ったら位置が違うこともよくあって……。
それに非常に事故が多くて、管の近くは手で掘らなければいけないなど、作業もすごく大変なんです。そこで、埋める前にデータをとってしまえば、正確な位置もわかり、作業もスムーズなんじゃないかと。ただ、まだ具体的なルールがなかったため、地下埋設物についても「県でデータを活用するガイドラインを策定しよう」ということになりました。
杉本氏 まずは私たちが、ICTを現場に導入しやすいルールを策定していく。これからも、そこに手を尽くしていきたいと思っています。難しいルールをつくって導入に時間がかかってしまうと本末転倒ですから、なるべく早く楽にできるように、今あるものを生かしながら、コストも抑えられる仕組みを考えていきたいですね。
いち早くICT化を推進し、公共事業におけるガイドラインの策定や3次元点群データのオープンデータ化など、全国初の取り組みに挑戦してきた静岡県。建設産業界が持つ旧態依然の考え方を、先進的でスマートなイメージに180度転換し、現場の生産性を上げることにも成功してきた。未来の街づくりを引っ張る、静岡県の動きにこれからも注目したい。
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