大手ゼネコンの鹿島建設株式会社(以下、鹿島建設)が生み出した、建設機械の自動化・無人化による次世代の建設生産システム「A⁴CSEL(クワッドアクセル)」。
この【後編】では、日本最大級の成瀬ダムプロジェクトや宇宙開発でのA⁴CSELの活用、これからのビジョンについて迫る。前編に引き続き、鹿島建設の技術研究所プリンシパル・ リサーチャー兼 機械部自動化施工推進室長である三浦悟氏(以下、敬称略)に話をうかがった。
ーー 今進んでいる成瀬ダムのプロジェクトについて、お伺いできますか。
三浦:秋田県で建設中の成瀬ダムは国内最大の台形CSGダム(セメント系の材料で構築する最新のダム形式)で、A⁴CSELが活用されています。CSGの打設量は485万平方メートルと広大で上下流幅も広いため、多くの自動機械を使った工事に適しているんです。 2026年の竣工(予定)をめざし、23台の自動建機を連携させ、ダンプトラックによるCGS材の運搬・荷下ろしから、ブルドーザによるまき出し・整形、振動ローラによる締固め、清掃作業まで行っています。
ーー すごいですね。生産性はどこまで上がるのでしょうか。
三浦:堤体場の盛り立て工事の90%は自動機械だけで作業でき、昼夜問わずに、最大3日間休みなく稼働することが目標です。今回の巨大プロジェクトでは、現場の施工技術者と検討を重ねて自動機械に適したやり方で、自動機械が出来る範囲を少しでも増やす工夫をしています。
三浦:例えば、CSG材を運ぶダンプトラックは、同じ方向を向いて「行って戻って」と直線運動だけで出来るように考えました。人が運転するのであれば、前進走行と途中で切り返してバックで所定の場所に進み材料をおろす動作を考えます。
ですが、自動走行だと、後進で数100mの長い距離を、決められたライン上でまっすぐ走行するのは難しいことではありません。逆に、切り返し動作がなくなる分、作業時間が減らせて効率的になるわけです。自動機械の特長を生かすために作業を単純化することの重要性を表す一つの例だと思います。
三浦:品質確保のために、CSG打設は作業が始まれば打設完了まで、休むことなく続けなければなりません。成瀬ダム工事の最盛期には 23 台の自動化機械による約 70 時間の連続施工が要求されます。それに対応するため、施工時の管制室員を4人毎の3交代制で行うことを目標にシステムの改良、人員の訓練を実施しています。従来では同じ規模の工事をしようとすると、各重機に一人ずつで3交代分とプラス予備人員として最低でも、80人ぐらいのオペレーターが必要でしたので、大きな省人化が図れると考えます。
ーー JAXAと鹿島建設で進めている宇宙探査イノベーションハブプロジェクトの話も、ぜひお聞かせください。
三浦:2030年代に月面上での有人探査という計画があるそうでして、2016年から、月面有人探査拠点の建設をターゲットにJAXA(宇宙航空研究開発機構)との共同研究を進めています。拠点施設の建設にA4CSELの技術を導入できないかという視点です。
ーー どういった方法で、無人重機を動かすのでしょうか。
三浦:基本的な建設方法としては、建設機械を送り込んで、地上や宇宙ステーションなどからリモコンを使った遠隔操縦で作業をする計画だと聞いていました。ですが、地球から月までの距離には通信に片道で最低約3秒は掛かるため、操縦信号を送信してから月面上の機械が動作するのが3秒後で、その映像が作業者に戻ってくるのにまた同じだけの時間が掛かると考えると、作業効率がとても悪くなります。そこで、遠隔操縦とA⁴CSELの自動運転を組み合わせて効率的な月面建設作業の可能性を探るテーマを進めています。
ーー 宇宙開発においても、A⁴CSELの技術が注目されているのですね。
三浦:それで、大学などにも入ってもらい共同で研究を進め、まずは地上で出来ないことには、月でもできないだろうという考えのもと、予定されている作業を自動運転で実施可能かを実験で確認しました。2019 年に、小田原にある当社の西湘実験フィールドで 2 種類の自動建機による、「整地 ー 掘削 ー 覆土」という基本作業を自動で行い、可能性を示すことが出来ました。
ーー現在の進捗はいかがですか?
三浦:今年(2021)の3月にはJAXA相模原キャンパスから1000km以上も離れたJAXA種子島宇宙センター衛星系エリア新設道路等整備工事の建設機械を公衆電話回線でつなぐとともに、人為的に月面を想定した通信遅延時間も入れ、実現場で実験を実施しました。想定した通信環境において遠隔操縦で出来ること、そしてさらに、自動運転の機能との連携でより細かい作業の実現性を確認することも確認できました。これからも引き続き、JAXAとともに宇宙分野の研究・開発を進めていきます 。
ーー 最後に、鹿島建設や三浦さんご自身が、これから目指すビジョンをおうかがいできますか?
三浦:現在、これ以外にも安全性の向上が喫緊の課題である山岳トンネル工事の自動化も進めています。基本的な仕組みは、ダムやトンネルも同じです。自分たちがつくった計画、自分たちがつくったプログラムで、自動で作業をしていく。効率よく安全に良いモノを作る技術を追及していくのが開発の本質だと思っています。そして全ての工種に広げていければ、“現場の工場化”ができて、省人化につながると。
また、施工の最適化をはかるためには、形はこれからですが「鹿島マニュアル」が必要だと考えています。計画したことを計画通りに進めるためには、作業の一つ一つ、時間であれ品質であれ、バラツキを押さえなければ実現しません。しかし、そのマニュアル化には、その中身の一つ一つを理解しなければ作れません。これまでゼネコンでは手を付けなかった領域に入って行かなければと考えています。
人手不足、熟練工不足が進むと、これまでのように多くの構成会社がそれぞれの分担を請け負って工事全体を進めることが難しくなることは、明らかだと思います。つまり、仕事の中身はお任せでもみんなそれなりの利益を得られる体制が続けられなくなった時に何が必要か。生産性を上げることで価値を高めるのが最も基盤的な対策だと考えています。自分たちで建設作業の標準を考えて、プロセスだけを管理して行けば、良い仕事が出来るという形態にならなければならないと思っています。
ーー 関わる人も多いので、透明性も大切ですよね。
三浦:そしてもちろん、働く人に優しいマニュアルでなくてはなりません。ルールに沿って施工計画を立てれば、“いつまでに完成するためは何人必要”というのが分かります。しかし、基準がなくて「この日までに終わらせるように」と上から言われたら、下請け会社さんは大変な思いをして遅くまでやることになってしまう。そんな環境は無くさないといけませんから。
ーー 三浦さんのお話から、鹿島建設では単に建物をつくる・橋をつくる・ダムをつくるということを超えて、思想のようなものをカタチにしようとしているのだなと感じました。
三浦:それこそが、DXになりますね。これまでの開発は完成した「モノ」をつくることでした。しかし今、私たちがしているのは機械に何をさせるのかという「コト」の開発です。「コト」の開発は完成形がなく、ずっとずっと追求していかなければいけないと思っています。ただそれだけにやりがいも夢も、大きいんですけどね。
【編集部 後記】
三浦氏の取材から、現場そして業界の働き方を変えていくという、鹿島建設の強い意思が感じられた。工場のように、現場で多くの機械が無人で動き、高い生産性を叶えるスマートな未来へ。A⁴CSELのその優れた技術・システムには、これからの可能性が無限大に広がっている。
鹿島建設株式会社
東京都港区元赤坂1-3-1
HP:https://www.kajima.co.jp/welcome-j.html
この【後編】では、日本最大級の成瀬ダムプロジェクトや宇宙開発でのA⁴CSELの活用、これからのビジョンについて迫る。前編に引き続き、鹿島建設の技術研究所プリンシパル・ リサーチャー兼 機械部自動化施工推進室長である三浦悟氏(以下、敬称略)に話をうかがった。
23台の自動建機を連携した成瀬ダム工事
ーー 今進んでいる成瀬ダムのプロジェクトについて、お伺いできますか。
三浦:秋田県で建設中の成瀬ダムは国内最大の台形CSGダム(セメント系の材料で構築する最新のダム形式)で、A⁴CSELが活用されています。CSGの打設量は485万平方メートルと広大で上下流幅も広いため、多くの自動機械を使った工事に適しているんです。 2026年の竣工(予定)をめざし、23台の自動建機を連携させ、ダンプトラックによるCGS材の運搬・荷下ろしから、ブルドーザによるまき出し・整形、振動ローラによる締固め、清掃作業まで行っています。
ーー すごいですね。生産性はどこまで上がるのでしょうか。
三浦:堤体場の盛り立て工事の90%は自動機械だけで作業でき、昼夜問わずに、最大3日間休みなく稼働することが目標です。今回の巨大プロジェクトでは、現場の施工技術者と検討を重ねて自動機械に適したやり方で、自動機械が出来る範囲を少しでも増やす工夫をしています。
三浦:例えば、CSG材を運ぶダンプトラックは、同じ方向を向いて「行って戻って」と直線運動だけで出来るように考えました。人が運転するのであれば、前進走行と途中で切り返してバックで所定の場所に進み材料をおろす動作を考えます。
ですが、自動走行だと、後進で数100mの長い距離を、決められたライン上でまっすぐ走行するのは難しいことではありません。逆に、切り返し動作がなくなる分、作業時間が減らせて効率的になるわけです。自動機械の特長を生かすために作業を単純化することの重要性を表す一つの例だと思います。
三浦:品質確保のために、CSG打設は作業が始まれば打設完了まで、休むことなく続けなければなりません。成瀬ダム工事の最盛期には 23 台の自動化機械による約 70 時間の連続施工が要求されます。それに対応するため、施工時の管制室員を4人毎の3交代制で行うことを目標にシステムの改良、人員の訓練を実施しています。従来では同じ規模の工事をしようとすると、各重機に一人ずつで3交代分とプラス予備人員として最低でも、80人ぐらいのオペレーターが必要でしたので、大きな省人化が図れると考えます。
宇宙での拠点建設プロジェクトも
ーー JAXAと鹿島建設で進めている宇宙探査イノベーションハブプロジェクトの話も、ぜひお聞かせください。
三浦:2030年代に月面上での有人探査という計画があるそうでして、2016年から、月面有人探査拠点の建設をターゲットにJAXA(宇宙航空研究開発機構)との共同研究を進めています。拠点施設の建設にA4CSELの技術を導入できないかという視点です。
ーー どういった方法で、無人重機を動かすのでしょうか。
三浦:基本的な建設方法としては、建設機械を送り込んで、地上や宇宙ステーションなどからリモコンを使った遠隔操縦で作業をする計画だと聞いていました。ですが、地球から月までの距離には通信に片道で最低約3秒は掛かるため、操縦信号を送信してから月面上の機械が動作するのが3秒後で、その映像が作業者に戻ってくるのにまた同じだけの時間が掛かると考えると、作業効率がとても悪くなります。そこで、遠隔操縦とA⁴CSELの自動運転を組み合わせて効率的な月面建設作業の可能性を探るテーマを進めています。
ーー 宇宙開発においても、A⁴CSELの技術が注目されているのですね。
三浦:それで、大学などにも入ってもらい共同で研究を進め、まずは地上で出来ないことには、月でもできないだろうという考えのもと、予定されている作業を自動運転で実施可能かを実験で確認しました。2019 年に、小田原にある当社の西湘実験フィールドで 2 種類の自動建機による、「整地 ー 掘削 ー 覆土」という基本作業を自動で行い、可能性を示すことが出来ました。
ーー現在の進捗はいかがですか?
三浦:今年(2021)の3月にはJAXA相模原キャンパスから1000km以上も離れたJAXA種子島宇宙センター衛星系エリア新設道路等整備工事の建設機械を公衆電話回線でつなぐとともに、人為的に月面を想定した通信遅延時間も入れ、実現場で実験を実施しました。想定した通信環境において遠隔操縦で出来ること、そしてさらに、自動運転の機能との連携でより細かい作業の実現性を確認することも確認できました。これからも引き続き、JAXAとともに宇宙分野の研究・開発を進めていきます 。
働く人に優しい“鹿島基準”を整備していく
ーー 最後に、鹿島建設や三浦さんご自身が、これから目指すビジョンをおうかがいできますか?
三浦:現在、これ以外にも安全性の向上が喫緊の課題である山岳トンネル工事の自動化も進めています。基本的な仕組みは、ダムやトンネルも同じです。自分たちがつくった計画、自分たちがつくったプログラムで、自動で作業をしていく。効率よく安全に良いモノを作る技術を追及していくのが開発の本質だと思っています。そして全ての工種に広げていければ、“現場の工場化”ができて、省人化につながると。
また、施工の最適化をはかるためには、形はこれからですが「鹿島マニュアル」が必要だと考えています。計画したことを計画通りに進めるためには、作業の一つ一つ、時間であれ品質であれ、バラツキを押さえなければ実現しません。しかし、そのマニュアル化には、その中身の一つ一つを理解しなければ作れません。これまでゼネコンでは手を付けなかった領域に入って行かなければと考えています。
人手不足、熟練工不足が進むと、これまでのように多くの構成会社がそれぞれの分担を請け負って工事全体を進めることが難しくなることは、明らかだと思います。つまり、仕事の中身はお任せでもみんなそれなりの利益を得られる体制が続けられなくなった時に何が必要か。生産性を上げることで価値を高めるのが最も基盤的な対策だと考えています。自分たちで建設作業の標準を考えて、プロセスだけを管理して行けば、良い仕事が出来るという形態にならなければならないと思っています。
ーー 関わる人も多いので、透明性も大切ですよね。
三浦:そしてもちろん、働く人に優しいマニュアルでなくてはなりません。ルールに沿って施工計画を立てれば、“いつまでに完成するためは何人必要”というのが分かります。しかし、基準がなくて「この日までに終わらせるように」と上から言われたら、下請け会社さんは大変な思いをして遅くまでやることになってしまう。そんな環境は無くさないといけませんから。
ーー 三浦さんのお話から、鹿島建設では単に建物をつくる・橋をつくる・ダムをつくるということを超えて、思想のようなものをカタチにしようとしているのだなと感じました。
三浦:それこそが、DXになりますね。これまでの開発は完成した「モノ」をつくることでした。しかし今、私たちがしているのは機械に何をさせるのかという「コト」の開発です。「コト」の開発は完成形がなく、ずっとずっと追求していかなければいけないと思っています。ただそれだけにやりがいも夢も、大きいんですけどね。
【編集部 後記】
三浦氏の取材から、現場そして業界の働き方を変えていくという、鹿島建設の強い意思が感じられた。工場のように、現場で多くの機械が無人で動き、高い生産性を叶えるスマートな未来へ。A⁴CSELのその優れた技術・システムには、これからの可能性が無限大に広がっている。
鹿島建設株式会社
東京都港区元赤坂1-3-1
HP:https://www.kajima.co.jp/welcome-j.html
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