コラム・特集
三浦 るり 2023.3.2

スパイダープラス主催『建設業における働き方改革関連法セミナー』をレポート!〜 2024年に向けて絶対に知っておくべきポイントを解説!〜

CONTENTS
  1. 建設業界が抱える課題と法適用に向けた生産性向上の必要性
  2. 建設業が注意すべき「働き方改革関連法」のポイント
  3. 労働時間削減に成功した建設事業者が行っている対策とは?
  4. 2024年問題に対する建設業の動向に、メディアからの注目が集まる
  5. 長時間労働の削減に成功した施策とは?
  6. ゼネコン・サブコンの多くはすでに取り組み始めている
建築図面・現場管理アプリ「SPIDERPLUS(スパイダープラス)」を手掛けるスパイダープラス株式会社(英語表記 SpiderPlus&Co.)は2022年12月13日、『建設業における働き方改革法』に関するメディア向けセミナーを開催。

東京都港区にある同社本社でのリアル会場とオンラインでの同時開催となった。

プログラムは、第一部「現役弁護士が解説!建設業の『働き方改革関連法案』のポイントと対策」、第二部「2024年の法適用に向けて働き方改革を実現させるための秘訣」と題し、各部の後半には質疑応答も行われた。

参加者は建設業界を専門に扱うメディアもそうでないメディアもあり、さまざまな切り口から質問が投げ掛けられた。

建設業界が抱える課題と法適用に向けた生産性向上の必要性


第一部に登壇したのは、スパイダープラスの執行役員・法務責任者・セールスグループ海外営業部長を務める高橋俊輔氏。

高橋氏からまず語られたのは「建設業が抱える課題」

一つが長時間労働で、全産業の平均と比較して建設業界の平均労働時間は年間350時間多く、月に換算すると30時間近く他の産業よりも長く働いているというデータがあるという。

建設業が抱える深刻な課題(資料提供:スパイダープラス株式会社)

また、「人材不足も課題の一つ」と高橋氏は指摘し、建設業界の労働者人口が2000年には653万人だったものが2020年には497万人、さらに2040年には287万人まで減少するという予測データを紹介。2020年から20年後までに建設業界の労働人口は約40%減少する可能性があると解説した。

このような状況下で、2024年度より働き方改革法が建設業でも適用されることが紹介された。

検察官の経歴も持つ高橋氏からは、「働き方改革関連法というのは労働時間や残業時間に規制をかけるもの。建設業はもともと全般的に働く時間が長いが、青天井ではなく残業時間をしっかり守るよう法規制が加わる。しっかりと理解しておかないと法律違反が起きてしまう」と言及。

続いて同社が実施したアンケート調査の結果が紹介された。建設業界従事者約2700名に対し行われた調査によると、「働き方改革関連法案についてしっかり知っている」という人は16.4%で、6人に1人の割合でしか法改正を把握していないという。

「働き方改革関連法」への認知度調査結果(資料提供:スパイダープラス株式会社)

「現状のように働く時間が長くなるのはそれだけ仕事量が多いということ。一方で人手は不足し続けている。人手が増える見込みがない以上、一人ひとりの生産性を上げていくことが重要です。近年、いたるところでDXと言われているが、建設業界もしっかりとDXを行っていく必要があると言えます」(高橋氏)

アナログ管理の建設現場はDXで大幅な生産性向上が必要(資料提供:スパイダープラス株式会社)

次に、同社が手掛ける建設現場向けのアプリケーションソフト「SPIDERPLUS」は社長が熱絶縁工事業を行う中で感じた不満をもとに、建設現場の生産性向上と仕事をより楽しめることを目指して製品開発に着手したエピソードが紹介された。

「SpiderPlus&Co.の『&Co.』は“共に”という意味合いがあり、かつて建設業に身を置いていた会社として顧客と同じ目線に立ち、現場で働く方々の意見に耳を傾けながら開発に取り組んでいます」(高橋氏)

建設業が注意すべき「働き方改革関連法」のポイント


セミナーテーマとスパイダープラスについてのイントロダクションののち、話題は「働き方改革関連法」へと移った。

かつて大手広告代理店の若手社員が過労自殺した事件をきっかけに、労働基準法が改正。すでに他の業界では2019年度より施行されているが、建設業を含む一部業界は適用猶予となっている。ただ、その例外の業界※も2024年4月1日より法適用となる旨が紹介された。

※ドライバー、新技術・新商品などの研究開発職、医師などは2024年4月以降それぞれに法の適用時期や内容が異なる。(資料提供:スパイダープラス株式会社)

例外となっている業界に共通するのは長時間労働。建設業は2012年頃に平均残業時間が月月82.4時間あったのが、2021年には月37.3時間と50%程度まで減少している。

しかし、いまだ全産業の中ではトップクラスであり、残業規制を適用させるのは難易度が高い。このような経緯から猶予が設けられたと高橋氏が解説を行った。

建設業界の月間平均残業時間推移(資料提供:スパイダープラス株式会社)

「適用猶予は、裏を返せば国から建設業に対して『一時猶予したのだから適用開始となればしっかり対応してほしい』というメッセージとも捉えられます。建設業は忙しいから無関係というスタンスは通らないと考えられるでしょう」(高橋氏)

続いて、2024年4月の働き方改革関連法適用の認知度に関する調査の結果が紹介された。その内訳は、

  • 「非常によく知っている」5.6%
  • 「よく知っている」10.8%
  • 「多少知っている」23.0%

これらの合計が39.4%であった。「多少知っている」を超える認知できているレベルは全体の16.4%にとどまり、「6人に1人程度しかきちんと知らない状態」だと高橋氏は言及した。

法改正の認知度(資料提供:スパイダープラス株式会社)

「では、法適用を知らないとどうなるかを説明します」と高橋氏は続けた。

「法律なので、“知らなかった”では済まされない」と指摘し、  
  1. 法律違反による行政・刑事手続き
  2. 労働紛争から訴訟されるリスクが生じる
  3. レピュテーション(評判・世評)リスク

といったことが想定されると語った。

「ブラック企業と噂されるところで働きたいという人はいないでしょう。また、取引予定の企業がブラックで労基署から摘発されていたら『ちゃんと取引していけるのか?』と思われてしまいます」(高橋氏)。

さらに、株式会社や上場会社であればステークホルダーから責任追及されるリスクもあると付け加えた。

働き方改革関連法の「不知の結果」(資料提供:スパイダープラス株式会社)

「働き方改革関連法が改正で変わることは、告示にとどまっていた時間外労働の上限が罰則付きになった。語弊を恐れずに言えば、告示というのは国が企業に対してお願いベースで『残業時間を守ってください』というニュアンスだったものが、これ以上の残業を課したら法律違反で罰則を付け、刑事罰を与えますという風に変わるのです。刑事罰が加わるというのは国がある種の犯罪行為と捉え、非常に大きな変化と言えます」(高橋氏)

続けて、高橋氏より時間外労働のポイントについて解説が行われた。

もともと法定労働時間は1日8時間、1週間40時間と定められており、これを超えて残業が生じる場合は36協定を結ぶ。

36協定を結ぶと2段階で残業を課すことができる。1段階目は、月45時間(年間360時間)。2段階目は、労使合意を条件として臨時的な特別の事情がある場合に残業が可能。

ただし、次の4条件を守る必要がある。

その条件とは

  1. 年720時間以内の時間外労働
  2. 時間外労働と休日労働を合わせて月100時間未満
  3. 時間外労働と休日労働の合計が2~6ヶ月それぞれの期間の平均がいずれも1ヶ月あたり80時間になること
  4. 時間外労働が月45時間を超えることができるのは年間6ヶ月が限度とする


時間外労働の上限のポイント(資料提供:スパイダープラス株式会社)

これら条件が改正されたポイントで、背いた場合には罰せられる。


臨時的な特別の事情には、予算・決算業務、納期逼迫(ひっぱく)、大規模なクレーム対応、機械トラブル対応などが想定され、これらの条件はできる限り具体的に、36協定締結時に決めておく必要がある。

「業務の都合上」などといった恒常的な長時間労働を招く定めや記載ではいけない。

時間外労働月80時間は過労死ラインと言われているが、それを上回るような、

  1. 年間時間外労働720時間超え
  2. 単月で時間外労働+休日労働が合計100時間超え
  3. 2~6ヶ月平均のいずれかの時間外労働が80時間超え
  4. 時間外労働45時間超えの月が年7回以上

となる1.~4.のような事例はいずれも法違反となる。




「法違反」となるケース(資料提供:スパイダープラス株式会社)

「もし法違反をすると、事業に与える影響は極めて大きい」と高橋氏は注意を促した。


法改正後は、

  1. 労働基準監督署長による企業幹部の呼び出し指導および全社的(本社・支社)立ち入り調査の実施
  2. 企業名の公表
  3. 最悪の場合、書類送検およびその事実の公表

といった罰則が定められている。

「立ち入り調査や呼び出しの基準については厚労省が発表しています。すでに資料に記して発表しているということは、きちんと監督していくという姿勢の表れ。国は本気だと言えます」(高橋氏)

労働時間削減に成功した建設事業者が行っている対策とは?


高橋氏は続いて、建設業従事者に対して行った「勤務先で行っている労働時間削減対策について」のアンケート※結果を紹介した。

※調査はスパイダープラス株式会社が2022年6月に実施。建設業従事者2711名より労働時間の削減に成功している321名、労働時間を削減していない251名を抜粋。

本社と現場ともに成功した対策として挙げたのは「スマートフォンの貸与」。

現場においては特に「施工管理ツールの導入」「ペーパーレス化の推進」が効果的という結果だった。


勤務先で行っている労働時間削減施策について(資料提供:スパイダープラス株式会社)

時間削減に成功している会社の76%は「社内周知」を行っており、一方で時間削減できていない会社では社内周知の実施は45%にとどまるという。

「労働時間削減に成功している会社は、できていない会社と比べて1.6倍『社内周知』が行われている。労働時間削減には社員一人ひとりを意識させることが大事と言えます」(高橋氏)

労働時間の削減と社内周知の認知についての相関(資料提供:スパイダープラス株式会社)

続いて、どのように社内周知を行っているかという調査では

  • 時間削減に成功しているグループは「全社メールの配信」(41.4%)
  • 「部署による文書掲示」(29.6%)
  • 「社内ポータルでメッセージ配信」(27.1%)

といった取り組みが目立った。

「これらはどれかをやればいいというわけではなく、複合的に施策することで社内周知が徹底され一人ひとりの意識を変えていくのが極めて大切だと言えます」(高橋氏)

社内周知の方法(資料提供:スパイダープラス株式会社)

2024年問題に対する建設業の動向に、メディアからの注目が集まる


高橋氏から働き方改革関連法のポイントと対策について解説が行われた後、参加したメディア関係者との質疑応答が行われた。

「建設業で横断的に労働時間削減するような方法はないのか?」という質問に対し、高橋氏は「建設業は施主や発注業者に向けて作成しなければならない書類が多い。また、一つの建設現場に複数の業者が参加する。そこで一つの電子データやポータルサイト上で情報を交換するなど共通の情報交換ツールを使うことでコミュニケーションコストを減らすといった効率化はできる」と回答。

参加者からの質問に答えたのは弁護士の高橋氏(資料提供:スパイダープラス株式会社)

「2024年度から施行に向けて、2023年度の建設業の動きはどうなると予想するか?」という質問
に対しては、「施行に合わせて2024年度から着手するのでは遅く、前倒しでしっかりと準備しないと労働時間削減は容易にはできません。助走期間として2023年はかなり重要と言えます。すでに大手を筆頭に労働時間削減に取り組んでいるところもあるが、資金があり推進役を立てやすい大手が中心で、企業体力がなく人でも不足しがちな中小企業は遅れ気味というのが実情」(高橋氏)

続いて「不可抗力で守れなかった場合でもすぐ摘発されるのか?」という問いには、「推測にはなるが、捜査当局にいた経験からすると、弱小な存在にいきなり厳しく取り締まることはないだろう。悪質性というのがひとつポイントになります。悪質性が高いとは、たとえば会社規模が小さくても過労死が複数出る、大手のスーパーゼネコンが複数の現場にわたって違法状態を続けているというようなケースです」(高橋氏)

また、「悪質性の高いケースに課されるペナルティはどの程度?」との質問に、高橋氏は「法定上、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金とされているが基本は罰金かと思います。ただ、冒頭で話した広告代理店での過労自殺の件では、検察庁が略式裁判という書類上で処理しようとしたところ、裁判所が重大事件だから正式裁判にしないといけないと判断しました。非常に悪質なケースは社会にも知らしめる形で正式裁判になる可能性も考えられます」と高橋氏は回答した。

長時間労働の削減に成功した施策とは?


第二部のテーマは「2024年の法適用に向けて働き方改革を実現させるための秘訣」。

特別ゲストにオーク設備工業株式会社 生産統括部生産企画部 グループ長 髙山郷司氏を招き、スパイダープラスの取締役執行役員およびコーポレートブランディング室長・カスタマーサクセス部長を務める鈴木雅人氏がモデレーターとなってインタビュー形式で進められた。

特別ゲストの髙山氏とモデレーターの鈴木氏(資料提供:スパイダープラス株式会社)

オーク設備工業は創業1963年、大林組グループに属し建設設備のうち空気調和設備、給排水・衛生設備、電気設備の設計・施工・リニューアルを中心に手掛ける設備サブコン。

一般的な事務所ビルや病院、ホテル、商業施設といった建物、工場や研究所などの産業施設などのクリーンルームといった高度な生産環境の構築に強みを持つ。

オーク設備工業の紹介(資料提供:スパイダープラス株式会社)

髙山氏は生産企画部に所属し、現場の生産性改善ツールの導入、現場の管理など管理全般の業務を主に手掛ける。また、情報システム部門において社内のIT化、情報化推進、情報セキュリティの強化および従業員に対するヘルプデスクも担当している。

鈴木氏から「弊社の建築図面・現場管理アプリ『SPIDERPLUS 』を2018年に導入いただきましたが、導入当時に時間削減の構想はあったのでしょうか?」と最初の問いが投げかけられた。

Q1.SPIDERPLUS導入時に時間削減は構想にあったか?(資料提供:スパイダープラス株式会社)

髙山氏は「導入時の狙いは、業務改善ができればというものでした。当時、現場職員の繁忙度がつねに高い状態で、少しでも時間削減につながればという思いがありました」とコメント。

オーク設備工業では2017年にiPadを施工管理ツールとして導入。しかし当時は活用できるツールが少なく、何かいいものはないかと探してたところPCでもiPadでも使える「SPIDERPLUS」に関心を持った。

導入当時はiPadを使って施工管理を行うことに抵抗感を抱く職員も少なからずいたという。まずは職員の理解を得ることが大事と考え、導入の方針を定めていった。

iPadの最初の活用法は図面の現場への持ち出し。以前は図面をA1サイズという大判の用紙に印刷し、施工管理に携わる職員が自分たちで製本して現場に持ち出していた。

製本には時間も手間もかかっていた。「SPIDERPLUS」は専門的な設備CADデータも登録可能で、PCでデータを登録すればiPadですぐに図面が見られるようになる。この機能が現場職員に特に好評だったという。「施工管理は図面を製本する時間が削減され、大きな図面や複数の書類を持ち歩かなくてもよくなりました」(髙山氏)


オーク設備工業で使われていた製本図面/写真下:紙図面をもった職員(写真提供:オーク設備工業株式会社)

鈴木氏が「製本作業がなくなった分、ペーパーレス化にもなっていますね」とコメントすると、髙山氏は「iPadを導入した段階では他のメモソフトを使っていたんです。それは図面を一度PDF化してiPadに保存する必要だった。それでは施工管理の職員にとっては『手間がかかる』と不評で困っていたところ、「SPIDERPLUSはドラッグ&ドロップでデータを移せるというのが決め手になりました」と付け加えた。

続いて、「SPIDERPLUSを導入した2018年当時に、働き方改革関連法はどの程度意識していましたか?」という鈴木氏の質問に、髙山氏は「導入時にSPIDERPLUSでどれくらい時間削減ができるかは不明確でした。そのため働き方改革関連法にこのツールが活かせるかは期待していなかったのが本音です」と回答。

Q2.導入時は法適用についてどのくらい意識していたか?(資料提供:スパイダープラス株式会社)

次に、鈴木氏から「SPIDERPLUSの導入以外に働き方改革関連法に対応する施策は何かありますか?」と問いが投げかけられると髙山氏は「作業所長面談を定期開催しています」と答えた。

オーク設備工業では、各現場の作業所長と本社の管理部門、事業部ごとに関連する部署の職員とで定期的にオンライン面談を実施しているという。

面談は月に1回程度開かれ、現場の繁忙度や職員の時間外労働の状況などについて話される。状況が芳しくない場合には改善アドバイスを行うなどして、注意を促しているという。

また、同社では現場事務支援グループを設け、書類作成や伝票入力などの業務を現場事務所に出向いたり、営業所で巻き取ったりして代行している。

「ただ、こうした現場の支援活動は働き方改革関連法に関わらず以前から取り組んでいたことです。ほかにも試験的にさまざまなことを試して、現場の方が少しでも楽になるようにと考えています」(髙山氏)

これまで試みてきたものには、通常、夕方に行われる現場打ち合わせを昼の時間帯に実施。夕方に重なるタスクを削減させる。

遠隔地の現場にいる職員と営業所の管理職がオンラインで会議を行う。iPadに搭載されているLiDAR機能を使って点群データが取得できるソフトを活用し現地調査を行う。

点群データを取得することで計測忘れをリカバリーしたり、のちのち対象物の構造を確認したりするのに役立てている。

新しいツールをどんどん検証して、使えるものは使っていこうという考えで進めています」(髙山氏)

これを受けて鈴木氏は「働き方改革関連法のためにというよりは、そもそもの建設業の課題である長時間労働に対して取り組みをされているのですね」とコメントした。

鈴木氏は続けて「御社では前倒しで働き方改革を進めているとのことですが、その目標を定めたのはいつですか?」と質問。これに対して髙山氏は「具体的に取り組み始めたのは2020年頃だったと記憶しています。と答えた。

Q3.働き方改革の前倒しという目標を定めたのはいつか?(資料提供:スパイダープラス株式会社)

取り組みの一環として社内でSPIDERPLUSの効果について調査したところ、SPIDERPLUSを使う職員は平均して一人あたり月8.5時間の時間削減効果を感じていることがわかったという。

「この調査の結果をもって弊社で進めている働き方革命に役立っていることがわかりました。その後、2024年の法適用に間に合うよう自社内で前倒しした目標を立てて推進しています。とはいえ現場は依然なかなかに忙しいので達成へのハードルは高いと感じています。SPIDERPLUSをはじめ、多方面の施策をして達成するぞと意気込んでいます」(髙山氏)

次に、働き方改革関連法の社内周知はどのように行っているかと鈴木氏から問いが出された。

これに対し、オーク設備工業でも社内周知は重要と考えており、また、何度も伝えてもなかなか浸透していかないと感じている。

同社では社内イントラネットへの掲示、メールでの通知、半年に1度のeラーニング研修、現場事務所で説明会の開催を実施している。

Q4.社内周知はどのように行われているか?(資料提供:スパイダープラス株式会社)

「まずはどういうものかを知ってもらうことに力を入れてきました。また、出勤簿システムを各職員の時間外労働の状況が把握できる仕組みに変更しました。状況は所属の上長や管理部もチェックできるようになっています。残業時間が増えがちな現場を管理部門が把握し、早めにサポートできるように活動しています」(髙山氏)

鈴木氏は「かなりきめ細やかな対応をしているのですね。一人ひとりに説明していくのは骨の折れる仕事だと思いますが、それが効果に確実に反映されていますね。法適用以降の取り組みに何か構想はありますか?」と質問を重ねた。

髙山氏は「基本的にはご紹介した対策の継続。また、法適用されてからの状況を見て、新しい施策を考えることになるかと思います。SPIDERPLUSなどの施策を含め、労働の質を高めつつ職員一人ひとりが働き甲斐を持てるようなかたちに昇華していきたいと考えています」と答えた。

これを受けて鈴木氏から、働き方改革関連法の適用に向けた取り組みで最も大事なポイントは何か?と問われ、髙山氏は「一番大切なのは各職員の意識かなと思います。個人が法を守り、ワークライフバランスを目指すことが重要ではないかと考えている」と回答。

髙山氏が考える働き方改革とは?(資料提供:スパイダープラス株式会社)

「髙山氏が考える働き方改革とは?」という問いかけに、「うちの会社だけでなく、この業界で働く方一人ひとりのウェルビーイングを目指すための手段が働き方改革ではないかと思います。仕事ができる方に業務が偏ってしまう、ということが起こりがちな業界でもありますが、便利なツールがいろいろ出てきています。そういったツールを使うことで時間外労働を削減して、ワークライフバランスを充実させ、日々を充足した時間に変えていく。そのための活動が働き方改革なのではないでしょうか」(髙山氏)

「建設業全体で取り組んでいく、かつ必ず達成しなければならない目標ですからね」と鈴木氏はコメントし、スパイダープラスでは建設業がより業務効率化できるような機能開発に一層励むとアピールした。

ゼネコン・サブコンの多くはすでに取り組み始めている


その後、参加者からの質問を受け付けた。

「御社は大林組グループということで、大林組から働き方改革関連に関する何か主導や示唆はあったのか?」というメディア関係者からの質問に対しては、髙山氏は「直接聞いてはいないが人事部門は何かしらメッセージを受け取っているはず。いずれにせよ親会社も弊社と同様に働き方改革に力を入れているので対策もさまざま十分に取っていると思います」と回答した。

続いて、「働き方改革を推進するなかで抵抗勢力もいるのではないか?それを打破する方法についで何か考えはありますか?」との質問には、「抵抗勢力の種類もさまざまあり、社内にも『忙しくて時間削減は難しいよ』と考える方もいると思います。

私は情報システム部門のヘルプデスクも担っており、職員から問合せが来た際に『これからはiPadを活用していく時代だよ』といった話を挟む機会があります。こうした地道な活動が意外と大きな効果を出すと感じています」と髙山氏は答えた。


次に、「働き方革命をプラスに捉えるとしたら、どんな考えがあるでしょうか?」という質問に髙山氏は、「個人的な思いになりますが、いまの若手を見ていると仕事第一よりも自分の人生を大事にしていきたいという考えが多いように感じます。おそらくその考えが今後の社会情勢としては一般的になるのでは。働き方改革関連法はそれを目指すべき手段になりうると考えます」とコメントした。

また、「サブコンの中での残業規制に関する動きは何かご存じですか?」という質問には、「弊社は設備サブコンと呼ばれる業界に含まれますが、弊社のような取り組みをしている会社は珍しくありません。弊社と同等規模の会社であれば各社すでに真剣に取り組まれているように感じます」(髙山氏)

これから働き方改革関連法に対策していこうという会社に対してアドバイスを求められると、髙山氏は「ひとくちに建設業と言っても業態はさまざまあり、うちのやり方や考え方だけでアドバイスできるところは少ないが、まずは『この業界で残業は当たり前』という考えを改めて、順法して自分たちのワークライフバランスを守っていくという気持ちを少しずつでも持っていただくことが第一歩だと思います。

あとは、私が情報システム部門というのもありますが、新しいツールを取り入れることでも時間削減できますので、新しいものにどんどんチャレンジしていただくとよいかと思います」とコメントした。

参加したメディア関係者からは質問が多数寄せられ盛況のうちに閉会した。

土木・建設業での働き方改革関連法の認知度はまだまだ高くないと言える。とはいえ、すでに対策に取り組んでいる企業では長時間労働の改善効果も見られるようだ。

セミナーでも法施行に向けて2023年は重要な年となると捉えられていた。建設業の働き方改革の進行については引き続き注目していきたい。





スパイダープラス株式会社
東京都港区虎ノ門2-2-1 住友不動産虎ノ門タワー27階
WEBサイト:spiderplus.co.jp


WRITTEN by

三浦 るり

2006年よりライターのキャリアをスタートし、2012年よりフリーに。人材業界でさまざまな業界・分野に触れてきた経験を活かし、幅広くライティングを手掛ける。現在は特に建築や不動産、さらにはDX分野を探究中。

会員登録

会員登録していただくと、最新記事を案内するメールマガジンが購読できるほか、会員限定コンテンツの閲覧が可能です。是非ご登録ください。