コラム・特集
高橋 奈那 2023.2.24

【G空間EXPO2022 レポート】JAXA / 内閣府 / 大手企業 /スタートアップ!産学官の衛星関連技術をまるっと紹介!

CONTENTS
  1. 地球を見守る「だいち」の目〜 地球観測衛星「だいち3号」と「だいち4号」の紹介〜/JAXA(宇宙航空研究開発機構)
  2. みちびきショーケース / 内閣府宇宙開発戦略推進事務局と準天頂衛星システムサービス株式会社
  3. オープンソースソフトウェア「QGIS」と3次元空間情報サービス「good-3D」/朝日航洋
  4. ハイエンドなRIEGLレーザースキャナによる高密度な3Dデータ/リーグルジャパン
  5. G空間情報解析プラットフォーム / 産業技術研究所
  6. Mapboxが魅せる!どこまでも広がる、情報活用の世界/Mapbox Japan合同会社
  7. 地図で見る統計(jSTAT MAP) /総務省 統計局
2022年12月6日(火)・7日(水)の2日間、「G空間EXPO2022」が、東京・浜松町で開催された。

初めて耳にする方もいるかもしれないが、「G空間」とは、将来が期待されている分野のひとつでもある“地理空間情報技術(Geospatial Technology)”の頭文字であるGを冠した略称だ。


そしてこの「G空間EXPO」こそ、G空間情報や衛星測位技術などを活用した最先端技術が集まる年に一度の大型イベントなのだ。

12回目の開催となる今回(2022年度)のテーマは『G空間で創るデジタル社会』。ジコン編集部では、土木・建設分野のICT化を支える重要なソリューションでもある測位システムを活用した最先端技術について取材するべく、開催初日となる6日(水)に会場を訪れた。


会場となったのは、東京都産業技術センター浜松町館。フロア全面を使った会場内には、トークセッションなどが行われるメインステージと、企業や団体が出展する展示ブースがずらりと並んでいた。

開場と同時にスタートしたオープニングセレモニーには、石井国土交通副大臣をはじめとする有識者が代表として登壇。産学官それぞれの立場から、G空間活用への意気込みを語った。





「人口減少・少子高齢化や自然災害などの課題が山積しているなか、地理空間情報を活用した防災・減災への取り組みや衛星測位サービスの一層の充実などに取り組んでいる。最新の技術やサービスを通じ、G空間が身近で現実的なものとなることが大事なのではないかと考えている」(石井国土交通副大臣)。

以下、産学官それぞれの立場から研究・開発されたソリューションや事例から、7つのブースをピックアップしていく。



地球を見守る「だいち」の目〜 地球観測衛星「だいち3号」と「だいち4号」の紹介〜/JAXA(宇宙航空研究開発機構)


国立研究開発法人  宇宙研究開発機構(以下、JAXA)のブースでは、新型の地球観測衛星「だいち3号」と「だいち4号」の役割とその働きについて紹介されていた。

地球上の観測データの獲得と利用分野の拡大をめざし、JAXAと三菱電機が共同開発を進めているプロジェクトだ。


東日本大震災の被災状況の観測に役立てられた「初代だいち」引退後、現在は「だいち2号」が宇宙から地球を見守っている。そして、さらに飛躍的に性能を伸ばした「だいち3号」と「だいち4号」の2基の打ち上げが予定されている。




「だいち3号」は「初代だいち」の役割を受け継ぐ後継機として開発された新モデルだ。

上部に取付けた光学センサーの性能が大きく向上し、なんと高度670kmの宇宙空間から地球地上にある80センチの物体を識別できるという。


さらに、通信速度が従来の2倍になり、1秒間に最大1.8ギガバイトのデータ送信が可能になった。日々変化する地球地表面の様子を、継続的に観測し続けるので、自然災害発生時以外にも、地図作成や樹木の植育状況の観測など、幅広い活用が期待されている。


「だいち4号」は、現在稼働中の陸域観測技術衛星2号「だいち2号」の後継機にあたる。

光学センサーを使う「だいち3号」にたいし、SARセンサーが採用されている点が大きな違いだ。対象に電波を放射し、反射波の強弱で表面の状態をとらえる。


そのため、明暗に左右されず、昼夜を問わず高精度な観測が可能だ。

これにより、自然災害発生時の被災状況をいち早く把握できるようになる。さらに、観測幅を従来の4倍にあたる200kmにまで拡大し、広域観測が可能になった。新しいふたつの人工衛星は、どちらも2023年中の打ち上げが決定しているそうだ。




みちびきショーケース / 内閣府宇宙開発戦略推進事務局と準天頂衛星システムサービス株式会社


米国のGPSにより、一般生活者にとってもすっかり馴染みのあるサービスとなった位置情報。

しかし、GPSのみでは電波が遮られ、安定した位置情報の取得が難しいという問題もあったのだが、日本製の衛星測位システム「みちびき」の運用開始以後、測位の質は格段に向上した。


「みちびき」が4機体制でGPSを補うことで、時間帯や場所を選ばずに、安定的にかつ高精度な測位が行えるようになり、衛星測位サービスの利用環境と活用シーンが広がり続けている。


土木・建設の分野でICTを活用した3次元測量やICT建機も、「みちびき」の存在は大きい。ブース内では、農業や土木をはじめとする、さまざまな導入事例が展示されていた。

また、「みちびき」の利活用の事例は、ウェアラブル端末を利用したゴルフナビゲーションサービスなど、ビジネス利用だけでなく、一般生活者を対象としたサービスにまで裾野を広げているようだ。




受信機が比較的安価で手に入るため、導入へのハードルも低い「みちびき」を利用した測位サービス。今後もさまざまなサービスへの利活用が期待できそうだ。




オープンソースソフトウェア「QGIS」と3次元空間情報サービス「good-3D」/朝日航洋


続いてふれるのは、G空間活用を支える情報サービスだ。ヘリや航空機を活用した上空からの測量に関して、長年の実績をもつ朝日航洋。


同社が取得した3次元地形データを、ライブラリーデータとして活用できる3次元空間情報サービスが「good-3D」だ。

計測には、航空機からレーザーを発射して地上で反射して戻ってくるまでの時間から、航空機と地上の距離を算出する「空中レーザ計測技術 ALMAPS」を採用している。


提供するデータは、都市計画や不動産開発時の景観シミュレーションや、都市の建造物を想定した日射・日陰の調査、水害予測、土砂災害予測といった自然災害への備えなど、さまざまな用途で使用できる。

数年ごとに更新データがリリースさえるため、再計測したり、測量会社に外注せずとも、低価格帯で高精細なデータが入手可能だ。

防災・減災を視野に入れた地図情報の更新や、長期的な施工物の維持・管理など、あらゆる場面で高いコストパフォーマンスを発揮するサービスといえそうだ。

さらに、無料で誰でもすぐに使えるオープンソース地理情報システム「QGIS」も見逃せない。


地理空間情報の技術者だけでなく、GIS活用をはじたい方に向けた入門ツールとしても非常におすすめだ。

スキル面に不安がある利用者への受け皿として、ハンズオン講座やワークショップ、GISデータを利活用する人材育成を支援するカリキュラムも用意。

急速にGISの活用が広まる一方で、オペレーター不足という課題を抱えている土木・建設業界の一助となるだろう。




ハイエンドなRIEGLレーザースキャナによる高密度な3Dデータ/リーグルジャパン


「レーザースキャナでの測量は、時間や手間がかかる」と考える方も多いかもしれない。しかし、リーグル製の地上型レーザースキャナは一味違う。


長距離計測が可能なので、広域の測量も短時間で終えられる。さらに、レーザーと画像、ふたつのデータを同時に取得できる上に、2つのデータをスキャナ内部で自動生成できるため、大幅な時間短縮を実現する。




「データのアップロードをするために、待つこと数時間……」。そんな無駄はなくなり、現場ですぐに生成後のデータを確認できる。直感的な操作性のタッチパネル式の画面も使用時のハードルを下げてくれそうだ。




G空間情報解析プラットフォーム / 産業技術研究所


このブースでは、測位サービスや地上の計測端末で収集したG空間情報を、さらに人工知能技術でリアルタイムに解析しようという試みが紹介されていた。


会場内に設置された高精度マーカとRGB-Dカメラが収集・撮影した情報をクラウドサーバ上で処理し、3次元位置情報をリアルタイムに取得する実験的な展示だ。


ブース内に設置された大型ディスプレイには、点群データでの会場地図に、変化し動き回る点群が表示されていた。つまり、いまこの瞬間に会場で起こっている動きを、リアルタイムに3G空間情報として変換している。

社会実装レベルでは、混雑緩和、災害時の避難・誘導ルート支援などに役立てられる予定だそうだ。







Mapboxが魅せる!どこまでも広がる、情報活用の世界/Mapbox Japan合同会社


ここからは、位置情報を活用したサービスを紹介したい。さまざまな情報を地図上に集約し、データ活用を推進する「地図開発プラットフォーム」を提供するMapbox Japan。


同社のソリューションは、国の内外を問わず、さまざまな企業で採用されており、馴染みのあるものでいうと、Yahoo! Japanが提供する気象情報サービス「雨雲レーダー」が好例だろう。

展示ブースでは、「ツール・ド・東北」開催時に開発されたマップが展示されていた。こちらのマップには、大会に出場するライダー1,500名の現在地がリアルタイムに表示される。


マップはインターネットブラウザで閲覧できる上に、出場するライダーの検索・位置情報の確認などもできるそうだ。

さらには、見どころライブ中継のピンをクリックすると、車載カメラが捉えた実際のコース映像を閲覧できるので、コース周辺の観光名所や震災復興の様子が、臨場感たっぷりで伝わってくる。「地図を見る」というよりも、地図情報を楽しむという表現が近いだろう。


“3D都市モデルを活用したデジタルツイン施策”と言われると、つい難しく考えてしまうかもしないが、同社の導入事例は、G空間活用の自由度の高さが伝わってくるものばかりだ。そして、ここまで本格的な地図情報サービスが、専門スキルがなくても手軽に始められるのも同社のサービスの特徴と言えるだろう。




地図で見る統計(jSTAT MAP) /総務省 統計局


最後に、各府省が公表する統計データを整備し、データ検索をはじめとするさまざまなサービスをワンストップで提供するポータルサイト「E-STAT」と、サイト内で提供されている統計GIS「jSTAT MAP」を紹介したい。

「jSTAT MAP」では、ブラウザ上の簡単な操作で、統計地図の作成が可能だ。


数値データは、統計局が「E-STAT」上で提供するもの以外に、利用者の保有するものでも構わない。このサービスを利用すれば、たとえば都道府県、市区町村、小地域(町丁・字)ごとにまとめられた統計結果を、簡単な操作でわかりやすく地図上に表示できる。


数値だけではイメージしづらいエクセルデータも、直感的に伝わる地図資料にアップデートできるのだ。基本的な機能が網羅されている上に、インターネット環境があれば、誰でもすぐに無料で利用できる。そのため、どんなものか試しに動かしてみる“G空間活用の入り口”として、最適なサービスだ。

操作するうちに好奇心が刺激され、空間地理情報を利活用するおもしろさを肌で体感できるかもしれない。






取材・編集:デジコン編集部 / 文:高橋奈那 / 撮影:砂田耕希
WRITTEN by

高橋 奈那

神奈川県生まれのコピーライター。コピーライター事務所アシスタント、広告制作会社を経て、2020年より独立。企画・構成からコピーライティング・取材執筆など、ライティング業務全般を手がける。学校法人や企業の発行する広報誌やオウンドメディアといった、広告主のメッセージをじっくり伝える媒体を得意とする。

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