LiDAR(Light Detection and Ranging/ライダー)とフォトグラメトリ(photogrammetry)という言葉をご存じだろうか。どちらも対象物を3次元で計測して、3Dモデルを生成する技術だ。映画やゲーム、そして製造や土木、建設、建築など、さまざまな業界で活用が進んでいる。
両者とも目的は同じ「3Dモデル生成」だが、生成のプロセスが全く異なる。それぞれのしくみと特徴と、長所・短所を整理する。
「LiDAR」とは、専用機器から近紫外光や紫外線などのレーザー光を対象物に照射し、その反射光の情報をもとに対象物までの距離や形状を測定し、点群データで再現する技術だ。
2020年にiPhone 12 Pro/Pro MaxやiPad Proに搭載されたことで広く知られるようになったが、その技術開発の歴史は古く、1960年代まで遡る。
現在は、人工衛星、飛行機、あるいはドローンなどに搭載して、地形測量や森林測量、建物の現況や発災時の被害状況の把握など、幅広い分野で活用されている。
自動車の自動運転で周辺車両や障害物を検出する際に用いられているのもLiDARの技術だ。
1つは、TOF(Time of Flight/〔光の〕飛行時間)方式。対象物に向けてレーザー光を照射してから、その反射光をセンサで検出するまでの時間から距離を計測するもので、iPhone 12 Pro/Pro MaxやiPad Proに搭載されているLiDARはこのタイプだ。
もう1つは、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave/周波数連続変調)方式。レーザー光を、周波数を変化させながら連続的に対象物に照射して、反射して戻ってきた波(受信波)の周波数から距離を測るというもの。
TOF方式はレーザー光を使うため、霧や雨といった測量場所の環境の影響を受けやすいが、FMCWは周波数を使用するため、周囲の環境に左右されにくく精度が高い。ただし、機構が複雑になるため、TOF方式よりも機器が高額になる。
一方、フォトグラメトリとは、複数枚の写真をコンピュータで解析し、3Dモデルを生成する技術のことで「写真測量法」とも呼ばれる。
測量や地形調査、建物や文化遺産の復元の資料、あるいはVR(仮想現実)空間で再現する3Dモデルの生成などに活用されている。
LiDAR以上に歴史が古く、19世紀後半にはすでに存在していたといわれる(もちろん、現在のようにコンピュータ解析ではなく、手作業で3Dモデルを生成)。フランスの画家で写真家のルイ・ダゲールがダゲレオタイプを発表したのが1839年。フォトグラメトリの歴史は写真のそれとほぼ重なる。
フォトグラメトリのしくみを簡単にまとめると、次のようになる。
まず、対象物をさまざまな角度から写真撮影する。次に、撮影した写真データのなかの特徴点を抽出し、それら紐づけて撮影位置や距離、角度の差分を計算して空間座標に落とし込み、3D点群データを作成する。
最後に、その表面に写真画像をはめ込み3Dモデルを生成するというものだ。写真撮影以後の過程は複雑だが、イタリア・3Dflow社「3DF Zephyr」や米国・Capturing Reality社の「Reality Capture」など、専用ソフトが多数市販されているので、ソフト以外にはカメラとソフトを動かすパソコンを用意するだけで、比較的簡単に始められる。
ともに3Dモデルを生成するという目的をもつLiDARとフォトグラメトリ。どちらが優れているというわけではなく、ともに一長一短がある。
LiDARの最大の長所は、短時間で高精度な3Dモデルを作成できる点だ。たとえば、森林調査に高解像度LiDARを搭載したドローンを利用すると、森林の上空をフライトするだけで、立木の本数や樹高、胸高直径(※)などの森林評価の指標データを簡単に収集できる。
一方で最大の短所は、機器が高額ということ。とくに産業用のLiDARは高額で、機器1台の価格が数百万円から1千万円を超えてくるものまである。誰でもおいそれと利用できるものではない。
また、比較的安価なTOF方式のセンサの場合、雨や霧など天候の影響を受けやすいという点は、先に指摘した通りだ。そのほかにも撮影した対象物のテクスチュアを正確に再現できない、極端に小さい対象物のスキャンには向かない、などの短所がある。
一方のフォトグラメトリの長所は、正確性だ。高精細な写真を準備できれば、精度の高い3Dモデルを生成できる。
とくに3Dモデルの表面に写真画像をはめ込むため、LiDARが不得意とする対象物表面のテクスチュアを正確に再現することが可能だ。
ただし、この長所は短所にもなりうる。写真の精度に3Dモデルの精度が依存するということは、写真の精度や枚数が十分ではないと正確な3Dモデルを生成できないということを意味するからだ。
複数枚の写真を撮影するためには時間が必要という点も、短所として挙げられるだろう。
さらに、写真をもとに3Dモデルを作成するということは、写真に写っていない部分は正確に再現できないこともマイナス点といえるかもしれない。
先の森林調査の例でいえば、上空から撮影できた部分は再現できても、木々の葉の下に隠れた地表のデータは再現できない。
先述したとおり、LiDAR機能を搭載したiPhone 12 Pro/Pro MaxやiPad Proが発売され、もともと高額だったLiDARが、身近な技術となりつつある。
実際、国土交通省は2022年3月31日に公開した「3次元計測技術を用いた出来形管理要領(案)」(令和4年3月版)で、3次元計測機器として簡易なモバイル端末の使用が認めている。
すでにOPTiM社の「OPTiM Geo Scan」のように、LiDARセンサ搭載のiPhoneとGNSSレシーバー取得の位置情報を組み合わせることで、短時間で高精度な測量を実施できる3次元スマホ測量アプリも市販されている。
また、近年、LiDARとフォトグラメトリのデータを組み合わせて使用するアプリも開発されている。今後はどちらか選ぶのではなく、両方の技術を補完しながら使用するという方法も選択肢になるだろう。
両者とも目的は同じ「3Dモデル生成」だが、生成のプロセスが全く異なる。それぞれのしくみと特徴と、長所・短所を整理する。
LiDARはレーザーの反射光の情報を活用
「LiDAR」とは、専用機器から近紫外光や紫外線などのレーザー光を対象物に照射し、その反射光の情報をもとに対象物までの距離や形状を測定し、点群データで再現する技術だ。
2020年にiPhone 12 Pro/Pro MaxやiPad Proに搭載されたことで広く知られるようになったが、その技術開発の歴史は古く、1960年代まで遡る。
現在は、人工衛星、飛行機、あるいはドローンなどに搭載して、地形測量や森林測量、建物の現況や発災時の被害状況の把握など、幅広い分野で活用されている。
自動車の自動運転で周辺車両や障害物を検出する際に用いられているのもLiDARの技術だ。
LiDARの計測方法は2つある。
1つは、TOF(Time of Flight/〔光の〕飛行時間)方式。対象物に向けてレーザー光を照射してから、その反射光をセンサで検出するまでの時間から距離を計測するもので、iPhone 12 Pro/Pro MaxやiPad Proに搭載されているLiDARはこのタイプだ。
もう1つは、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave/周波数連続変調)方式。レーザー光を、周波数を変化させながら連続的に対象物に照射して、反射して戻ってきた波(受信波)の周波数から距離を測るというもの。
TOF方式はレーザー光を使うため、霧や雨といった測量場所の環境の影響を受けやすいが、FMCWは周波数を使用するため、周囲の環境に左右されにくく精度が高い。ただし、機構が複雑になるため、TOF方式よりも機器が高額になる。
フォトグラメトリは複数の写真の差分から3Dモデルを生成
一方、フォトグラメトリとは、複数枚の写真をコンピュータで解析し、3Dモデルを生成する技術のことで「写真測量法」とも呼ばれる。
測量や地形調査、建物や文化遺産の復元の資料、あるいはVR(仮想現実)空間で再現する3Dモデルの生成などに活用されている。
LiDAR以上に歴史が古く、19世紀後半にはすでに存在していたといわれる(もちろん、現在のようにコンピュータ解析ではなく、手作業で3Dモデルを生成)。フランスの画家で写真家のルイ・ダゲールがダゲレオタイプを発表したのが1839年。フォトグラメトリの歴史は写真のそれとほぼ重なる。
フォトグラメトリのしくみを簡単にまとめると、次のようになる。
まず、対象物をさまざまな角度から写真撮影する。次に、撮影した写真データのなかの特徴点を抽出し、それら紐づけて撮影位置や距離、角度の差分を計算して空間座標に落とし込み、3D点群データを作成する。
最後に、その表面に写真画像をはめ込み3Dモデルを生成するというものだ。写真撮影以後の過程は複雑だが、イタリア・3Dflow社「3DF Zephyr」や米国・Capturing Reality社の「Reality Capture」など、専用ソフトが多数市販されているので、ソフト以外にはカメラとソフトを動かすパソコンを用意するだけで、比較的簡単に始められる。
LiDARとフォトグラメトリ、それぞれのメリットとデメリット
ともに3Dモデルを生成するという目的をもつLiDARとフォトグラメトリ。どちらが優れているというわけではなく、ともに一長一短がある。
LiDARの最大の長所は、短時間で高精度な3Dモデルを作成できる点だ。たとえば、森林調査に高解像度LiDARを搭載したドローンを利用すると、森林の上空をフライトするだけで、立木の本数や樹高、胸高直径(※)などの森林評価の指標データを簡単に収集できる。
一方で最大の短所は、機器が高額ということ。とくに産業用のLiDARは高額で、機器1台の価格が数百万円から1千万円を超えてくるものまである。誰でもおいそれと利用できるものではない。
また、比較的安価なTOF方式のセンサの場合、雨や霧など天候の影響を受けやすいという点は、先に指摘した通りだ。そのほかにも撮影した対象物のテクスチュアを正確に再現できない、極端に小さい対象物のスキャンには向かない、などの短所がある。
一方のフォトグラメトリの長所は、正確性だ。高精細な写真を準備できれば、精度の高い3Dモデルを生成できる。
とくに3Dモデルの表面に写真画像をはめ込むため、LiDARが不得意とする対象物表面のテクスチュアを正確に再現することが可能だ。
ただし、この長所は短所にもなりうる。写真の精度に3Dモデルの精度が依存するということは、写真の精度や枚数が十分ではないと正確な3Dモデルを生成できないということを意味するからだ。
複数枚の写真を撮影するためには時間が必要という点も、短所として挙げられるだろう。
さらに、写真をもとに3Dモデルを作成するということは、写真に写っていない部分は正確に再現できないこともマイナス点といえるかもしれない。
先の森林調査の例でいえば、上空から撮影できた部分は再現できても、木々の葉の下に隠れた地表のデータは再現できない。
目的に合わせて技術を選択する
先述したとおり、LiDAR機能を搭載したiPhone 12 Pro/Pro MaxやiPad Proが発売され、もともと高額だったLiDARが、身近な技術となりつつある。
実際、国土交通省は2022年3月31日に公開した「3次元計測技術を用いた出来形管理要領(案)」(令和4年3月版)で、3次元計測機器として簡易なモバイル端末の使用が認めている。
すでにOPTiM社の「OPTiM Geo Scan」のように、LiDARセンサ搭載のiPhoneとGNSSレシーバー取得の位置情報を組み合わせることで、短時間で高精度な測量を実施できる3次元スマホ測量アプリも市販されている。
また、近年、LiDARとフォトグラメトリのデータを組み合わせて使用するアプリも開発されている。今後はどちらか選ぶのではなく、両方の技術を補完しながら使用するという方法も選択肢になるだろう。
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