国土交通省では、i-Constructionが目指す生産性向上や働き方改革の一環として、建設工事でのパワーアシストスーツ(PAS)の活用を検討している。
装着することで重い荷物の上げ下げなどによる身体的負担を軽減できるパワーアシストスーツ(PAS)は、物流や農作業などの産業分野、また介護業界ではすでに普及し始めている。肉体労働の多い建設業界でもパワーアシストスーツ(PAS)は活用しがいがありそうだ。
ただ、ひとくちにパワーアシストスーツ(PAS)といっても多種多様である。他業界で役立つ製品も土木・建設業界に同じような活用場面があるとは限らない。
そういったこともあり、国交省は2020年(令和2年)に「建設施工におけるパワーアシストスーツ導入に関するWG(ワーキンググループ)」を立ち上げ、建設業界に適したパワーアシストスーツ(PAS)の選定や活用法を模索している。果たしてワーキンググループはどのようなパワーアシストスーツ(PAS)に注目しているのか?この先、建設現場への導入が期待される製品やその活用場面について解説する。
「パワーアシストスーツ(PAS)」は、身に付けることで人の力や仕事を補助する機器や装置のことである。パワードスーツ、アシストスーツとも呼ばれる。
種類は大きく2タイプに分けられ、非動力型の「パッシブタイプ」とバッテーリー駆動の「アクティブタイプ」がある。アシストする部分は足腰、上体、上腕、手など製品によって様々だ。重い荷物を持ち上げたり運んだりする動きのサポートが目的のほか、長時間の中腰姿勢や前屈運動の繰り返しによる疲労を低減させるための製品などもある。
◎ パッシブタイプ
素材・動力:
ゴム、バネ、支柱構造体、空気圧など
特徴:
重量:
サポート型は約300g~800g
空気圧タイプや支柱構造体型は2~5kg程度
価格帯:
サポート型は数千~数万円
空気圧タイプや支柱構造体型は約4万~100万円以下
◎アクティブタイプ
動力:電気
特徴:
重量:
約4~6kg
価格帯:
65万~100万円前後
パッシブタイプは電動でないため比較的低価格で、水に濡れるような場面での使用も可能だ。一方で、アクティブタイプはアシスト力の高さが強み。製品それぞれの特徴に合わせた使用場面を選ぶことが大切である。
施工におけるパワーアシストスーツ導入に関するWGは、2020年(令和2年)の夏に現場実証に向けてパワーアシストスーツ(PAS)に関する技術情報を公募した。同年10月のWG会議で募集結果が報告されている。
ワーキンググループでは募集した情報を基に、パワーアシストスーツ(PAS)の分類を行った。同時にパワーアシストスーツの導入効果が期待される作業場面を洗い出し、活用事例や導入効果を図る評価指標を設定した。同年12月には、実証実験に向けて施工現場への適性がありそうなパワーアシストスーツ(PAS)を選出。選定の際には以下のような条件を基準にした。
◎ 選定基準
●装着時の他装具障害性
フルハーネスとの併用可能性(または併用可能性あり)、併用困難または不可
●助力部位
腰のみ、腰に加えてそれ以外の部位(脚部、中腰姿勢など)
●防水性または耐水性
IPX4(水の飛まつに対して保護)以上
●想定ユースケースへの適用性:評価用として各半日程度の作業を想定
職種や作業内容によって装備は異なるが、例えばとび工ならばフルハーネスを全身にまとい、腰回りにも工具を装着する。パワーアシストスーツがこれらに干渉するようでは活用が難しい。このこと以外にも現場導入に向けた課題を抽出するため、以下の4製品が評価候補に選定された。
●スマートスーツ/株式会社スマートサポート
腰周りに装着するコルセットで大幹を安定させる。背面には肩と太ももをX字につなぐゴムベルトが配されており、ゴムの伸縮性を利用して上半身を引き起こす動きをアシストする。利用者の体力維持のため、あえてアシスト力が強くならないように設計されている。
●マッスルスーツEvery/株式会社イノフィス
空気圧を利用した人工筋肉で、最大補助力は25.5kgfとパワフル。電力を使わないため、水場や屋外でも使用できる。本体重量は3.8kg。ユニットをリュックサックのように背負ってベルトを締めるだけ、10秒で装着できる。難しい操作がなく誰でも気軽に使い始められるようになっている。
●HAL腰タイプ作業支援用/サイバーダイン株式会社
生体電位信号を読み取ることで作業者の意思に従った動作をアシスト。持ち上げや運搬の際にかかる腰への負担を低減する。重量は約3kgと軽量で、長時間の作業でも邪魔にならず女性や高齢者にも負担なく利用が可能。
● PAIS-M100/パワーアシストインターナショナル株式会社
モーションセンサで装着者の動きを遅れず検出し、モーター駆動ですばやく・力強くアシスト。20~30kgの物を持ち上げる際には10~15kg分を腰アシストする。
長時間の中腰作業では、姿勢保持のアシストを行うことで腰の負担を軽減する。歩行時には足の振り上げと踏ん張りを両方アシスト。階段歩行や重い荷物の運搬、運搬車を推す作業で高い効果を発揮する。
ワーキンググループでは、令和2年度に模擬作業を実施、パワーアシストスーツ(PAS)を用いた際の“作業のサイクルタイム”と“負荷・疲労の低減”の変化を測定した。同時に、“作業の質”が確保されるかの評価を行った。
令和3年度からは模擬作業による検証に加え、実現場での試行もスタートしている。平常時だけでなく災害復旧の場での試行も実施されるという。評価内容については、前年度の検証内容の見直しを行い、パワーアシストスーツの使いやすさや安全性も評価していく方針だ。
2021年(令和3年)9月に開催されたワーキンググループの会議報告において、現状のパワーアシストスーツが効果を発揮するユースケースが公開されている。概要としては以下の通り。
ただし、高所や狭い場所での作業や俊敏な動作や頻繁に移動する作業には、現状の機能や性能では適用が難しいと判断している。
今後、ワーキンググループはパワーアシストスーツ(PAS)導入に伴う生産性の変化、若手技能者の就労や定着への影響も中長期的に検証していく考えだ。
検証結果は各製品のメーカーにもフィードバックしており、今後、建設業界により適応性の高い製品が出てくることも期待される。国交省が認定する製品が増えたり、購入費用を支援するような制度ができたりすれば建設現場への普及が加速しそうだ。
パワーアシストスーツが建設現場に浸透すれば、高齢の作業員にもできる作業が増え、身体の故障による離職を抑えることができ、労働環境が改善されることで若手作業員の雇用促進も期待できる。業界が抱える人材面の課題を解消する一助となるだろう。
装着することで重い荷物の上げ下げなどによる身体的負担を軽減できるパワーアシストスーツ(PAS)は、物流や農作業などの産業分野、また介護業界ではすでに普及し始めている。肉体労働の多い建設業界でもパワーアシストスーツ(PAS)は活用しがいがありそうだ。
ただ、ひとくちにパワーアシストスーツ(PAS)といっても多種多様である。他業界で役立つ製品も土木・建設業界に同じような活用場面があるとは限らない。
そういったこともあり、国交省は2020年(令和2年)に「建設施工におけるパワーアシストスーツ導入に関するWG(ワーキンググループ)」を立ち上げ、建設業界に適したパワーアシストスーツ(PAS)の選定や活用法を模索している。果たしてワーキンググループはどのようなパワーアシストスーツ(PAS)に注目しているのか?この先、建設現場への導入が期待される製品やその活用場面について解説する。
パワーアシストスーツ(PAS)とは?
「パワーアシストスーツ(PAS)」は、身に付けることで人の力や仕事を補助する機器や装置のことである。パワードスーツ、アシストスーツとも呼ばれる。
種類は大きく2タイプに分けられ、非動力型の「パッシブタイプ」とバッテーリー駆動の「アクティブタイプ」がある。アシストする部分は足腰、上体、上腕、手など製品によって様々だ。重い荷物を持ち上げたり運んだりする動きのサポートが目的のほか、長時間の中腰姿勢や前屈運動の繰り返しによる疲労を低減させるための製品などもある。
◎ パッシブタイプ
素材・動力:
ゴム、バネ、支柱構造体、空気圧など
特徴:
- サポート型は腰コルセットや肘・膝サポーターのような形状で交反発素材の収縮性で関節の曲げ伸ばしを補助する。
- 背骨の形状を模したサポートパーツで、正しい姿勢に導き疲労を軽減させる。
- 稼働時間に制限がない。
- 空気やガスの加減圧を利用して前傾姿勢から身体を起こす動きを補助したり、上腕を支えたりする。
重量:
サポート型は約300g~800g
空気圧タイプや支柱構造体型は2~5kg程度
価格帯:
サポート型は数千~数万円
空気圧タイプや支柱構造体型は約4万~100万円以下
◎アクティブタイプ
動力:電気
特徴:
- センサやモーターを使って動作を制御する。
- 自動制御によりスムーズなアシストが可能。
- 製品にもよるが、10kg程度のアシスト力がある。
- 一般的に充電式で、連続稼働時間が限られる(数時間~約8時間)。
重量:
約4~6kg
価格帯:
65万~100万円前後
パッシブタイプは電動でないため比較的低価格で、水に濡れるような場面での使用も可能だ。一方で、アクティブタイプはアシスト力の高さが強み。製品それぞれの特徴に合わせた使用場面を選ぶことが大切である。
国交省が注目するパワーアシストスーツ(PAS)、4種を紹介
施工におけるパワーアシストスーツ導入に関するWGは、2020年(令和2年)の夏に現場実証に向けてパワーアシストスーツ(PAS)に関する技術情報を公募した。同年10月のWG会議で募集結果が報告されている。
ワーキンググループでは募集した情報を基に、パワーアシストスーツ(PAS)の分類を行った。同時にパワーアシストスーツの導入効果が期待される作業場面を洗い出し、活用事例や導入効果を図る評価指標を設定した。同年12月には、実証実験に向けて施工現場への適性がありそうなパワーアシストスーツ(PAS)を選出。選定の際には以下のような条件を基準にした。
◎ 選定基準
●装着時の他装具障害性
フルハーネスとの併用可能性(または併用可能性あり)、併用困難または不可
●助力部位
腰のみ、腰に加えてそれ以外の部位(脚部、中腰姿勢など)
●防水性または耐水性
IPX4(水の飛まつに対して保護)以上
●想定ユースケースへの適用性:評価用として各半日程度の作業を想定
- 人力土工(軽装:平地移動、掘削、運搬、荷下ろし)
- 構造物内での作業を模した仮設足場組み(フルハーネス・標準装備装着:仮設足場上下移動、作業平場運搬、配筋のための中腰作業
職種や作業内容によって装備は異なるが、例えばとび工ならばフルハーネスを全身にまとい、腰回りにも工具を装着する。パワーアシストスーツがこれらに干渉するようでは活用が難しい。このこと以外にも現場導入に向けた課題を抽出するため、以下の4製品が評価候補に選定された。
パッシブ部門
●スマートスーツ/株式会社スマートサポート
腰周りに装着するコルセットで大幹を安定させる。背面には肩と太ももをX字につなぐゴムベルトが配されており、ゴムの伸縮性を利用して上半身を引き起こす動きをアシストする。利用者の体力維持のため、あえてアシスト力が強くならないように設計されている。
●マッスルスーツEvery/株式会社イノフィス
空気圧を利用した人工筋肉で、最大補助力は25.5kgfとパワフル。電力を使わないため、水場や屋外でも使用できる。本体重量は3.8kg。ユニットをリュックサックのように背負ってベルトを締めるだけ、10秒で装着できる。難しい操作がなく誰でも気軽に使い始められるようになっている。
アクティブ部門
●HAL腰タイプ作業支援用/サイバーダイン株式会社
生体電位信号を読み取ることで作業者の意思に従った動作をアシスト。持ち上げや運搬の際にかかる腰への負担を低減する。重量は約3kgと軽量で、長時間の作業でも邪魔にならず女性や高齢者にも負担なく利用が可能。
● PAIS-M100/パワーアシストインターナショナル株式会社
モーションセンサで装着者の動きを遅れず検出し、モーター駆動ですばやく・力強くアシスト。20~30kgの物を持ち上げる際には10~15kg分を腰アシストする。
長時間の中腰作業では、姿勢保持のアシストを行うことで腰の負担を軽減する。歩行時には足の振り上げと踏ん張りを両方アシスト。階段歩行や重い荷物の運搬、運搬車を推す作業で高い効果を発揮する。
パワーアシストスーツ (PAS)現場導入への道のり
ワーキンググループでは、令和2年度に模擬作業を実施、パワーアシストスーツ(PAS)を用いた際の“作業のサイクルタイム”と“負荷・疲労の低減”の変化を測定した。同時に、“作業の質”が確保されるかの評価を行った。
令和3年度からは模擬作業による検証に加え、実現場での試行もスタートしている。平常時だけでなく災害復旧の場での試行も実施されるという。評価内容については、前年度の検証内容の見直しを行い、パワーアシストスーツの使いやすさや安全性も評価していく方針だ。
2021年(令和3年)9月に開催されたワーキンググループの会議報告において、現状のパワーアシストスーツが効果を発揮するユースケースが公開されている。概要としては以下の通り。
- 掘削、持ち上げ、据え付けなど身体負担が大きい苦渋作業で適用可能性が高いものがある
- パッシブ、アクティブそれぞれの特性に応じた評価の考え方が必要
- 人力作業が多く、身体負担が高い作業を強いられる災害現場での使用も考えられる
ただし、高所や狭い場所での作業や俊敏な動作や頻繁に移動する作業には、現状の機能や性能では適用が難しいと判断している。
今後、ワーキンググループはパワーアシストスーツ(PAS)導入に伴う生産性の変化、若手技能者の就労や定着への影響も中長期的に検証していく考えだ。
検証結果は各製品のメーカーにもフィードバックしており、今後、建設業界により適応性の高い製品が出てくることも期待される。国交省が認定する製品が増えたり、購入費用を支援するような制度ができたりすれば建設現場への普及が加速しそうだ。
パワーアシストスーツが建設現場に浸透すれば、高齢の作業員にもできる作業が増え、身体の故障による離職を抑えることができ、労働環境が改善されることで若手作業員の雇用促進も期待できる。業界が抱える人材面の課題を解消する一助となるだろう。
WRITTEN by
三浦 るり
2006年よりライターのキャリアをスタートし、2012年よりフリーに。人材業界でさまざまな業界・分野に触れてきた経験を活かし、幅広くライティングを手掛ける。現在は特に建築や不動産、さらにはDX分野を探究中。