2011年3月11日。東北地方を中心に未曾有の被害をもたらした地震、そして津波被害から、今年で10年を迎えた。この歳月は、建設土木業に携わるものにとっても、大きな変化を伴うものだったのではないだろうか。
国土交通省の旗振りのもと、2016年から本格的に指導したi-Constructionが、震災復興にどのような影響を与えたのか。今回は、東北地方で行われてきた取り組みや施工を前編後編の2回に渡り、振り返る。
国土交通省がi-Constructionの推進を掲げたその年、東北地方整備局を中心に編成された「復興加速化会議」では震災復興事業のさらなる推進を目的にi-Constructionを活用していく方針が決定。
そして2016年2月1日に開催された第一回「東北震災復興i-Construction(ICT)連絡会議で」は、i-Constructionに関する情報共有が行われた。
注目したいのは、そのスピード感だ。翌月3月4日に開催された第二回目の連絡会議では、測量・施工・三次元起工データ管理などでICT技術が活用されている河川工事現場の視察を行い、さらに第三回にはICT技術者育成のための教育現場視察などを行っている。
では、実際の施工で活用された事例を見ていこう。
三陸沿岸道路359kmの早期完成にむけ、2011年から動き始めた官民一体となった復興道路の施工プロジェクト。通常官民が連携して行う事業では、各行政地区の担当部署や施工を行う事業所ごとに連絡系統が縦割りになり、情報共有にも多大な時間を要するケースが多く見受けられる。また、非常に復興道路全域という大規模な事業量を考えても、着工前の業務をいかに短縮化するかがカギとなっていた。
しかし、当プロジェクトは、復興道路の事業化からわずか2年後にはすべての施行区域で工事に着工した。通常なら着工に4年かかると言われている準備期間の大幅短縮を実現したのは、官民、そして施工エリア全域の情報系統を一元化するための、情報共有システムを導入したことにある。
行政だけでなく、すべての業者が閲覧できるサイトを別途作成し、業務ごとの共有が行われた。また、測量や設計、調査など各業務フローが完了した段階で、データがリアルタイムで共有することができ、設計や調査の結果を随時フィードバックできたことも大きいのではないだろうか。
また、各区域を担当する建設事業者も積極的にICT技術を導入していた。
たとえば、三陸沿岸道路の舘地区道路改良工事を担当した岩田地崎建設は、当プロジェクトでICT5段階活用による施工を行っている。とくにマシンガイダンス(MC)バックホウを利用した法面整形工事では、丁張り作業が短縮されただけでなく、危険を伴う傾斜地の施工にも関わらず、予定を約1ヶ月短縮し、無事故で施工を完了することができたという。2021年現在、復興道路は全線開通に向け、大詰めという段階だ。
早期着工の甲斐あって、順次開通となった区域は多い。そして、復興道路の整備によって、地域への経済効果はすぐに現れた。復興道路の開通により東北地域間の移動時間が短縮されたことにより、観光客の数は震災以前と比較して1.3倍に増加。
輸送機関が短縮されたことにより、物流や地域産業の復興の支えにもなっている。岩手県南三陸港では、港を利用する企業が道路開通前と比較して2倍に増加。福島県相馬港では、6倍に増加した。地域で飼育されている卵や農産物の首都圏への出荷量も増加していることから、東北地域全域の経済成長の支えとなっていることがわかる。
着工前、そして施工期間中は、地域住民への情報共有がオープンにされていたことにも注目したい。南三陸国道事務所は集約された調査・設計データをもとに、完成後の釜石市の姿を上空から捉えた動画を作成。町役場などに設置されたモニターには、復興道路完成後の街のようすを視覚的に伝える映像が繰り返し映し出された。
また、地域住民向けのホームページを立ち上げ、工事の進捗が随時公開されていた。全国の事業者の毎日の作業情報が自動的に反映される仕組みだ。
復興道路に関する一連のプロジェクトは、i-Constructionの活用により、官民そして地域に暮らす方々が一体となったモデルケースと言えるのではないだろうか。i-Constructionが推奨され間もない頃、誰もが新技術の実用に対して手探りだった状況下にも、一日も早い全線開通をみなが目指し、知恵を合わせた成果だろう。
後編では、東北地域における現在のICT活用状況について紹介していきたい。
国土交通省の旗振りのもと、2016年から本格的に指導したi-Constructionが、震災復興にどのような影響を与えたのか。今回は、東北地方で行われてきた取り組みや施工を前編後編の2回に渡り、振り返る。
東北復興i-Construction
国土交通省がi-Constructionの推進を掲げたその年、東北地方整備局を中心に編成された「復興加速化会議」では震災復興事業のさらなる推進を目的にi-Constructionを活用していく方針が決定。
そして2016年2月1日に開催された第一回「東北震災復興i-Construction(ICT)連絡会議で」は、i-Constructionに関する情報共有が行われた。
注目したいのは、そのスピード感だ。翌月3月4日に開催された第二回目の連絡会議では、測量・施工・三次元起工データ管理などでICT技術が活用されている河川工事現場の視察を行い、さらに第三回にはICT技術者育成のための教育現場視察などを行っている。
では、実際の施工で活用された事例を見ていこう。
東北に大きな賑わいを生んだ、復興道路
三陸沿岸道路359kmの早期完成にむけ、2011年から動き始めた官民一体となった復興道路の施工プロジェクト。通常官民が連携して行う事業では、各行政地区の担当部署や施工を行う事業所ごとに連絡系統が縦割りになり、情報共有にも多大な時間を要するケースが多く見受けられる。また、非常に復興道路全域という大規模な事業量を考えても、着工前の業務をいかに短縮化するかがカギとなっていた。
しかし、当プロジェクトは、復興道路の事業化からわずか2年後にはすべての施行区域で工事に着工した。通常なら着工に4年かかると言われている準備期間の大幅短縮を実現したのは、官民、そして施工エリア全域の情報系統を一元化するための、情報共有システムを導入したことにある。
行政だけでなく、すべての業者が閲覧できるサイトを別途作成し、業務ごとの共有が行われた。また、測量や設計、調査など各業務フローが完了した段階で、データがリアルタイムで共有することができ、設計や調査の結果を随時フィードバックできたことも大きいのではないだろうか。
また、各区域を担当する建設事業者も積極的にICT技術を導入していた。
たとえば、三陸沿岸道路の舘地区道路改良工事を担当した岩田地崎建設は、当プロジェクトでICT5段階活用による施工を行っている。とくにマシンガイダンス(MC)バックホウを利用した法面整形工事では、丁張り作業が短縮されただけでなく、危険を伴う傾斜地の施工にも関わらず、予定を約1ヶ月短縮し、無事故で施工を完了することができたという。2021年現在、復興道路は全線開通に向け、大詰めという段階だ。
早期着工の甲斐あって、順次開通となった区域は多い。そして、復興道路の整備によって、地域への経済効果はすぐに現れた。復興道路の開通により東北地域間の移動時間が短縮されたことにより、観光客の数は震災以前と比較して1.3倍に増加。
輸送機関が短縮されたことにより、物流や地域産業の復興の支えにもなっている。岩手県南三陸港では、港を利用する企業が道路開通前と比較して2倍に増加。福島県相馬港では、6倍に増加した。地域で飼育されている卵や農産物の首都圏への出荷量も増加していることから、東北地域全域の経済成長の支えとなっていることがわかる。
着工前、そして施工期間中は、地域住民への情報共有がオープンにされていたことにも注目したい。南三陸国道事務所は集約された調査・設計データをもとに、完成後の釜石市の姿を上空から捉えた動画を作成。町役場などに設置されたモニターには、復興道路完成後の街のようすを視覚的に伝える映像が繰り返し映し出された。
また、地域住民向けのホームページを立ち上げ、工事の進捗が随時公開されていた。全国の事業者の毎日の作業情報が自動的に反映される仕組みだ。
復興道路に関する一連のプロジェクトは、i-Constructionの活用により、官民そして地域に暮らす方々が一体となったモデルケースと言えるのではないだろうか。i-Constructionが推奨され間もない頃、誰もが新技術の実用に対して手探りだった状況下にも、一日も早い全線開通をみなが目指し、知恵を合わせた成果だろう。
後編では、東北地域における現在のICT活用状況について紹介していきたい。
WRITTEN by
高橋 奈那
神奈川県生まれのコピーライター。コピーライター事務所アシスタント、広告制作会社を経て、2020年より独立。企画・構成からコピーライティング・取材執筆など、ライティング業務全般を手がける。学校法人や企業の発行する広報誌やオウンドメディアといった、広告主のメッセージをじっくり伝える媒体を得意とする。